刑事コロンボ史上、最も高齢な殺人者の登場である。
今回の犯人はアビゲイル・ミッチェル、売れっ子ベテラン推理小説作家である。彼女、簡単に言ってしまえば70歳を超えたおばあちゃんなのだけれど滅茶苦茶チャーミングなのである。姪の命を奪った(少なくとも彼女はそう信じている)姪の夫を自宅の金庫室に閉じ込めて窒素死させる(その筋の方はご存知であろう、古畑任三郎の中森明菜が犯人を演じたエピソードは、本作品を雛型としている)という残虐な殺害方法を採るのだが、それでも彼女を思い返す際に冷酷無比な殺人者というイメージが第一にこないのは彼女の『復讐』という動機もさることながら、演じるルース・ゴードンが発するチャーミングさによるものだろう。
コロンボのあとをついてチョコチョコ歩く様といい、目を輝かせてコロンボと推理合戦を繰り広げたりする様子はある意味犯人らしくないのである。
そして彼女、コロンボファンなら思わずニヤリとしてしまう言葉をコロンボに投げかける。最早コロンボ警部の代名詞と言っても差し支えないだろう、ファンならば何十回、何百回と耳にしたであろうあの台詞。
「あの、すみません。もう一つだけ」
投げかけられた瞬間の警部の可笑しさといったら。
勿論見所は犯人側だけではない。
アビゲイル・ミッチェルの講演会会場に訪れたコロンボが、成り行きでスピーチをさせられるシーンがある。
ここで我々は如何にコロンボ警部が『殺人課の刑事』という職業を愛しているか、そして行った殺人という行為は兎も角、殺人犯の中にも愛すべき人間がいた事(アビゲイルに自首を促しているようにも感じる)等を警部の口から聞くのだ。ここはすっとぼけたコロンボ警部も目が真剣で、観ているこちらも感慨深いシーンである。『殺しの序曲』の犯人追及シーン直前の警部の長台詞と併せて、実に印象深いシーンである。
人間ドラマとして実に面白い本作、片や知恵比べという観点では若干物足りない点があるのも確か。ダイイング・メッセージではなく被害者が犯行現場に残した車の鍵に焦点が当たり気味なのも残念だし、犯人逮捕の決め手がそのものズバリダイイング・メッセージだというのも不完全燃焼感がある。
それでも本作が大いに楽しめる作品であるのは間違いがないのだけれど。
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