ある日、父が一枚のDVDを差し出した。
「お前の好きなB級スプラッター・ホラー、だそうだよ」
受け取ったのが今日レビューを書く『30デイズ・ナイト』。父が職場の同僚から譲り受けたらしい。
一体どんな映画なんじゃい、と軽く調べてみたところ、どうやら「吸血鬼モノ」。平野耕太先生の『HELLSING』を愛読し、『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』で吸血鬼の耽美な美しさにグッときた僕は吸血鬼に弱い。
「自分が実は吸血鬼で、何百年も前から今の姿であり、歴史の生き証人として静かに暮らしている」なんて妄想をしてしまうくらいだ。おいそこそこ、イタイなんてつっこむんじゃない。自覚はあるんだから。
さて『30デイズ・ナイト』である。
アメリカ最北端に位置するアラスカ州の小さな町・バロウ。隣町から128キロも隔たれた陸の孤島であるこの町は、毎年冬になると30日間太陽が昇らなくなる。ある日、住民のジョンが飼っていた10数頭のハスキー犬が殺され、若い保安官のエバンが駆けつける。その後エバンはダイナーを訪れ、揉め事を起こした不審人物を離婚協議中の妻ステラと協力して逮捕する。保安官事務所に拘留されたその男は“もうすぐ奴らがやってくる”と呟く。突然、町中が停電し、電話が不通になる。エバンが発電所に急行すると、惨殺された管理人の生首があった・・・。
まあ要するに上記の“不審人物”は吸血鬼にパシリにされた人間で、不審人物氏が船を操りバロウ近くに吸血鬼を運搬、30日間太陽が昇らない間に「天敵、不在!」って事で吸血鬼達は意気揚々と食料である人間を狩り始めるわけである。
この吸血鬼達というのが現代英語を喋っていないあたり、どこか別の国の出なのかそれとも物凄い昔から存在しているのか、その辺りは描かれていないのだけれどもそこは謎めいていて良い。彼らの着ている衣服も狩った人間達から略奪したのかマチマチ。その容貌というのが一見人間と同じなのだけれども黒目がやたら大きく、歯も鮫の歯のように鋭くなっており、中には顔面が猛禽類を思わせるように変形している輩もいる。エレガントな吸血鬼像とはちょっと違うけれども、これはこれでなかなか良い。
で、こいつらがリーダーを中心に組織化されていて、太陽が昇らなくなったらすぐさま犬ソリ用の犬を殺害、機動力を奪った上で発電所を攻め落とす。足と電気を奪った上で住民に一斉に襲い掛かる、と随分計画的。最終的には街ごと焼き払って証拠隠滅を図ったりと知的で、「あーこいつら今までこうやって色々な街を襲ってきたのね」と想像力を刺激される。
で、この吸血鬼から30日間逃げ切ろうとするのがジョシュ・ハートネット演じる保安官と離婚協議中の奥さんを中心とする一団。知恵と勇気を振り絞り、逃げる隠れる攻める。で、吸血鬼一派も負けておらず「目撃者は一人も生かしちゃおけねえ。だって俺達やっと“想像上の化け物”になったんだしね」と捕らえた人間を囮に生き残りをあぶりだそうとする等、こっちはこっちで必死な様子。
ただその必死のかくれんぼ、そして恐らくは「これは胸が熱くなる展開だろフフフフ」と製作者が意図した“終盤戦”も登場人物に対する描きこみが足りないせいかどうにも感情移入出来ない。「あーこの人死んじゃった」とかその程度で終わってしまう。
人間としては吸血鬼達が大嫌いな太陽が昇るまでの30日間逃げ切ればいいわけなのだけれども、劇中では確かに30日間経っているはずなのだが観ているとそこまで時間が経過したように感じない。いつまで経ってもピンピンしている主人公達もさる事ながら、一気に一週間時間が経過していたり「おいおいそこ観たいんじゃないのかよ」という部分がすっとばされていて若干肩透かし感が否めない。そりゃあ2時間程の映画で30日間の逃げ隠れを描けっていうのも無理はあるだろうけれども、さ。
けれども何だかんだ言って結構楽しんだのは事実。
B級スプラッター・ホラーではなかったけれども(B級かどうかは置いておくにしても、スプラッター・ホラーではない。ちょっとグロい部分はあるにはあった)、コーラとスナック菓子を傍らに置いて軽い気持ちで観る分には十分楽しめた。
それにしても父さん、僕は別にスプラッター・ホラーが好きなわけじゃあないよ!(笑)
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