エフェクター畑でつかまえて。

おいおい参ったよ、あと4時間後には家を出ているはずなのに僕ったらまだ起きているんだぜ。

でも勘違いしないでくれよ、これは何も僕ばかりのせいじゃないんだぜ。確かに今の僕は一分一秒でも早くベッドに入ろうって気分じゃあないけれど、それは些末な問題なんだ。僕は今日兎に角忙しかったんだ。そりゃあ目が回るくらいにね。本当なんだったら。まあ聞いてくれよ。
アルバイトを終えた僕(もう知ってるかもしれないけど僕は家族営業の楽器屋で働いてるんだ。それはそれは素敵なお店なんだぜ)は最近お気に入りのマウンテンバイクー赤くてピカピカした父さんのマウンテンバイクさ。近頃は僕が乗り回してるんだーに乗って急いでスタジオへ向かったんだ。息が切れたし糞っ垂れみたいに足には乳酸が溜まったよ、だけども僕は急いだんだ。
それでスタジオ近く、二ブロックと離れない場所にこの夏に新しく開店したらしいというラーメン屋があるってんで、僕行ってみたんだよ。
ら・けいこってラーメン屋知ってるかい?知らない?じゃあ説明すると麺が極太で背油が浮いてて野菜が山盛りでニンニクが入ってて…そう、ラーメン二郎みたいなラーメン屋なんだけど今日行ったラーメン屋ー麺屋かばち、だったかなーもそんな二郎にインスパイアされたら・けいこにインスパイアされた店だったんだ。
暖簾をくぐって僕はピンときたね。間違いない、ここなら望んだラーメンが食べれるってね。何となくわかっちまうものなんだ、特にニンニクを山盛りにしてくれるような店はね。兎に角僕、そこで醤油ラーメンを食べたんだ。期待を外さない、それは素敵なラーメンだったよ。

で、だ。時計を見たらもうすぐ10時じゃないか。スタジオへお気に入りのマウンテンバイクで乗り付けて、そのまま練習だよ。不完全密室殺人ってバンドをやってるんだぜ、僕。洒落てない名前だろう?名前の割にポップな音楽をやってると思ってるんだがね。兎に角一生懸命練習した。何せ翌日は東京でライブだしね(訳者注:チケット予約はfukanzen_murder@yahoo.co.jpまで)。
であっという間に一時間過ぎちまってそれからJONNYってバンドの練習さ。

このバンドは金髪の洒落た女の子が歌ってるバンドなんだけどギターの奴がパーマをかけたってんで妙に可愛らしくなってて、僕は参ってしまったよ。そいつったら全くコミックに出てくるヒーローみたいなパーマ頭なんだぜ。それでレンズの入ってない眼鏡をかけてギターを弾いてるんだからお洒落にも程があるってもんだよ。
たっぷり3時間は練習したかな、僕ヘトヘトになっちまって急いでマウンテンバイクを漕いで帰ろうとしたんだ。
そうしたらあと少しで家ってところで人が地下鉄乗り場の入り口にもたれかかって倒れてる。皺のないシャツを着た、いかにも仕事ができます然とした男だったな、そいつがうなだれて目を閉じてるんだ。夜中の3時にそんなのを見ちまったらほら、僕も根は善人だからさ、放っておけずに近くにいたお爺さんと助け起こすわけだよ。
そうしたら何てこたあない、奴さん、酔っ払って寝てただけなんだ。
お爺さんが気を利かせて「ほら、そこにベンチがあるから休むといい」って言ったらそいつ何て言ったと思う?「ベンチ…ベンツで帰ります」だってさ。小学生でも言わないような冗談に僕、笑う事も忘れて唖然としちまったよ。
奴さんがフラフラ歩いていって、信号待ちのお爺さんと僕が残されたっていうわけ。
お爺さんが「この時分は、冷えるねえ」って言ったかな。日常の中でちょっとした出来事があるとその時間を共有した者同士、親近感を感じる事ってないかい?僕達がまさしくそれでさ、僕はお爺さんに「おやすみなさい」って言ってペダルを漕ぎ出したんだ。お爺さんの「おやすみ」に心のどこかが温かくなるのを感じてね。

そんなわけで僕は帰ってきたんだ。全く目が回っちまうような夜だろう?本当に僕のせいじゃないんだったら。

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