嘘。

広い世界、バンドは数多く存在するしつまりベーシストも多い(だがそれにしても僕の周りのベーシスト不足は一体何なのだろう?)。
今まで様々なバンドと対バンし、様々なベーシスト氏と共演してきたわけだが、たまに僕の足元やラックプリアンプを見て話しかけて下さる方がいる。

先日も共演したバンドのベーシスト氏(曲の屋台骨となるフレーズを的確に、かつグルーヴィに弾かれる方だった)が演奏終了後に話しかけてくださった。

意外にも足元にエフェクターを並べているベーシストは同業者の中でも珍しいのか、その方も僕のエフェクトボードに興味を抱かれたようで何を使っているのか眺めてらっしゃった。

たまにベースにエフェクトをかける事に抵抗のある音楽家に出会うが、まあこの場ではそれについて否定はしないものの、僕がエフェクターを使うのにはちゃんと理由がある。や、勿論好きだからというのもあるのだが。

単純に選択肢の問題だ。フレーズ、音使い、リズム、間、様々なやり方で自己主張、曲への貢献が可能な楽器だというのは周知の通りだと思うが、ここに音色を加えたかったというだけなのだ。意図して使えば立派に楽曲に彩りを添えてくれるのに使わない手はない、と考える。

と同時に時としてベースを弾きながらにして「ベースの範疇外」のアプローチを可能としてくれる場合もある。ギターのような、打ち込みのような、ノイズのような存在としてのエフェクテッド・ベース。大学2年の頃から僕は選択肢を二つ増やしてくれたエフェクテッド・ベースの存在に夢中だし、それを使って音楽をやってきた。

話が大幅に逸れた。本件はそんな話を書きたかったのではない。僕がついた小さな嘘について謝罪したくてこの記事を書いているのだ。

そのベーシスト氏、僕のチューブスクリーマーを見、話はブースターに及んだ。我々ベーシストは多かれ少なかれ恐らくは人口の半分がより良い歪みやブースターを模索している。話が一番弾むのもこの手のエフェクターだ。
そのベーシスト氏は「ビッグマフも良いよ」と薦めて下さった。

ああそして僕は。僕はためらったのだ。自分のエフェクター所有台数、エフェクター中毒を悟られたくない。自分の病的な部分についてそれ相応の自覚がある僕は咄嗟にこう言った。「今度試してみます」。

謝罪せねばなるまい。僕は自分の名誉、その場の和やかな雰囲気、そして健常なるエフェクト愛好家としての尊厳を守るために嘘をついた。

およそ今から3年前、丁度二十歳の誕生日の日に僕はビッグマフを購入していたのだ。それは僕のコレクションの中でも20台目にあたる記念すべきエフェクターで、忘れられようもないエフェクターだった。

それを告げていたら多分僕は自分の嗜好、病的なまでのエフェクター中毒ぶりを発揮し、恐らくはそのベーシスト氏はリアクションに困っていただろう。だが僕は罪悪感を感じざるを得ない。

その夜の氏の演奏は、それはそれは素敵なものだったし、僕は素直に氏に尊敬の念を抱いていたからである。

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