地下鉄は、様々な感覚に満ち溢れていて五感を刺激するにはぴったりだ。
サークル帰りか、もう21時を回っているのに女子大生風の娘が乗っている。
彼女の半径5メートルは彼女の使うシャンプーか、或いは香水か甘い香りが漂っていて図らずも僕は深呼吸する事になる。頭の中で必死に「僕は変態じゃない僕は変態じゃない」と繰り返しながら。
ふと掴まった手すりは冷たい金属の温度と、それとどう足掻いたとて調和し得ぬベタベタした手触りとを与えてくれる。沢山の人間の脂と垢とをすり付けられてはこうなるのは当然だが、ふと自分の体もじんわり汗ばんでいる事を思い出す。
ふと目に入る週刊誌の中吊り広告はグラビアアイドルと競馬の騎手との熱愛が発覚した旨をでかでかと謳っている。豊満な胸に芸術的にくびれた腰を有する彼女は何を思って13歳年下の若者と恋愛に興じるのか。気付けば脳内はそのグラビアアイドルの肢体で埋め尽くされている。
両耳に突っ込んだイヤーホンからは自分にとって神格化されつつあるプログレッシヴ・ロックバンドの演奏が流れ出している。今から40年以上前に彼らは何を思ってこのような曲を作り、演奏したのか。自分達の後のバンドに与える途方もない大きな影響を自覚していたのだろうか、とドカドカと打ち鳴らされるスネアドラムを聴きながら想像する。
味覚。
いっけねえ、味わってねえや。地下鉄の中の飲食は見た目が宜しくない故。
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