孤独部での東京遠征

15日午前1時半、夜勤をバシッと終えて入浴、身支度を終えソフトケースにエフェクターも詰め込んでついでに念のためリュックサックに着替えやらホッカイロやらも詰め込んで迎えが来るのを待つ。
孤独部にて東京遠征。活動最初期に遠征しているらしいが、今の形態になってからは初だという東京遠征。大森靖子さんが高円寺 円盤にて毎月行ってきたという月例企画にご招待頂いた。
かしやま君が借りてきたレンタカー(車には頓着しない性格なので詳しくはないが、ウィッシュという車種らしい)に役者3人、バンドマン3人で乗り合わせての名古屋-東京の夜間移動。普段バンドで移動している行程ではあるのだが、今回はちょっとわけが違った。

14日日中から降り注いだ雪は東京の機能を低下させ、中央道は閉鎖、飛行機も欠航、一般道路も凍結や雪によって車移動が困難(当日東京に遠征していた友人曰く「一時間で10キロしか進んでいない」との事)になっている、との報せが耳に入ってきた段階である程度の覚悟はしていた。しかし、まさか。合計13時間かけて高円寺に行く事になるとは誰が予想しただろう。様子を見ながら進めば良い、とどこかでたかをくくっていた部分はあるにはあった。僕は、今回の事態を甘く見過ぎていたのだ。

刈谷にて今回の作品の重要なモチーフとなるかしやま君の生家を皆で見、一路東京へ。人の実家というのはノスタルジックな気持ちに間借りするようで、一種独特の感覚にさせられる。
移動を始めて数時間後、深夜4時頃だろうか。発熱。ここ数日間の間体に拭い去りようのない倦怠感を感じてはいたのだが、まさか風邪だとは。SAに止まった際に車から降りて(寒さと寒気で体がガタガタ震えて、その度に打ち身が癒えていない左腕の付け根が痛んで惨めな気持ちになった)荷台のリュックサックからホッカイロを取り出し、首筋と腰に当てる。コートとマスクと軍手で完全防寒し、そのまま眠る。
数時間後、目が覚めると体調が心なしか回復している。程なくして海老名SAに到着したのでフランフルトを一本と栄養ドリンクを2本体に入れ、再び就寝。
起きると東名高速道路から孤独部カーは降りており、コンビニの駐車場にいた。
あれ、体調治ってる…。
まさかの行きの車中で風邪をひき、行きの車中で完治!素晴らしいホッカイロ!素晴らしい栄養ドリンク!発汗作用って偉大だね!
(リハーサル後に携帯電話が壊れた時にはもうなんなの、と笑みさえこぼれた。これまた高円寺のauショップにてすぐさま機種変更。新しい物好きなんだよね、僕)

高円寺 円盤での演奏は「マイクを使わずに発声する役者3人」+「カホン」+「ラインで鳴らすエフェクターを通したエレアコ」+「ベースアンプから鳴らされるエレクトリックベースギター」という今回の編成でスタジオ入りしたどの部屋よりも演奏しやすかった。役者の声もしっかり聞こえるし各楽器のバランスも気持ち良い。音量バランスがどうってのも勿論あるにしても、あの空間ならではの雰囲気によって集中力が高まったのが大きいんじゃないかと、そんなロマンチックな事を考えている。
かしやま君の作品っていうのは自分の過去や心情を切り取って作品にしているものが僕の知る限りほとんどで、彼自身もそういう創作とそれによる表現、情感っていうのを孤独部の身上としていると思うのだけど、今回の作品程何ていうんだろう、言葉が刺さってくる作品はなかったな。脚本を書き終えた後に一旦距離を置いて役者としてそれに取り組んでいるような、そんなかしやま君の演技はその作品の性質上そうなりがちになりそうな「独りよがり」感は皆無だったし、役者チームは一丸となって表現していた。美しかったもんな。
演奏チームも良い具合にその作品の空気感をわかりやすく演出出来たのではないか、と思っている。間口を広げる役目としての演奏、っていうのは普段の演奏と違う神経を使って面白い。

共演の川染喜弘さん、初めてライブを拝見したのだけど滅茶苦茶良かった。サンプラーを用いた中での、っていうと語弊があるかな、システム上はサンプラーを用いて色々な音をサンプリングしてリズムトラックを形成、その上で韻を踏まないリリックをほとばしらせるスタイル。しかしきっと川染さん、リズムトラックがなくても物凄く良い表現をされるんだろうな。
表に積った雪をゴミ袋に詰めて登場、その細身をフル活用してまくしたてるように喋る喋る。雪を食べたり水を飲んだりする音をサンプリング、するもむしろそれはライブのシークエンスとシークエンスを繋ぐ要素で、あの人っていうのは本当になんだろうなあ、御自身で、御自身だけで勝負されてるんだな。凄まじかった。40分の演奏で何を受け取ったかっていうと初見の僕は川染喜弘という人間の生き様とインテリジェンス。
次回観た際にはきっとまた違ったものが見えるだろう。
大森靖子さんはつい先日THEピンクトカレフを観た後だったから尚更そう思ったのかもしれないけれど、あの人THEピンクトカレフの時と一人の時では全然表情違うのね。って当たり前か。THEピンクトカレフの時はバンドマンの顔になっていて一人の時は「大森靖子」の顔になっている(私生活をそこまで知らないのでそれがあの人のパーソナルな表情なのかどうかは判断出来ない。そこまで多くはないけど僕が見てきたステージの外での大森さんって凄く穏やかな表情をしている人だ)。
今回の二組で痛感したのはどんな形の感動であれ、人にそれを与える表現者っていうのはどこかしらその人の息吹が感じられるという事だ。その人自身であるっていう事だ。今回孤独部演奏メンバーとして共演したのは二人の人間だったなあ、とイベント終了後に痛感した。自分自身を音楽で表現出来るって、曲を作った事がない僕からするととてつもない事のように思えますね。

終演後、山田詠美「僕は勉強ができない」のハードカバーを購入。500円。樫山君をはじめ僕とあの作品を知る人は「きっと君はあれ好きだよ」と言うので気になっていた。嬉しい出会い。
打ち上げは大森さんの案内で高円寺の中華料理屋で。名前を失念してしまったのだけどどうやらここ、高円寺界隈ではバンドマンの「はきだめ」らしい。これって決してネガティヴな表現ではなくてつまり「安くて」「相応に旨くて」「居心地が良くて」「適度にはしゃげる」って事だ。実際ワンコインでご飯、スープお代わりし放題の定食(しかも種類が豊富!)とか馬鹿デカい餃子とかコストパフォーマンスは滅茶苦茶高かったし、麻婆春雨もユーリンチーも肉汁したたる餃子も全部旨かった。良い店だったなあ。

「可能な限り起きてるから!」と言い張るも、モンスターエナジーを飲みながら高速道路に乗って早々に意識を消失。名古屋までの道中は仮眠を挟みつつも樫山君が運転しきってくれた。寝ちゃってごめん。
個人的にも実りの多い東京遠征だった。

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今日は行きの車中で死にかけているかしやましげみつ君の写真でお別れしましょう!

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