岩井俊二監督作品『四月物語』を観た。
よく考えたら岩井俊二作品って『スワロウテイル』を大学生の頃(つまり今から10年程前だ。ぞっとするね)に観て以来だ。
これから『リリィ・シュシュのすべて』とか『PiCNiC』とか観ていくのだろうけれども、なんだろう、まだ二本しか観てないのだけどこの人の作品って良い意味で気の抜けた炭酸ジュースみたいな、そういう印象を受けるね。
これ、褒め言葉ね。そういうのが好きな人もいるし、僕もそういうの好きだもの。
映画は状況する主人公を駅のホームで見送る一家から始まる。
いやね、ここの初っ端からの大盤振る舞いには驚いた。松本幸四郎をはじめ主演の松たか子のご家族勢揃いですよ。
ああ、これはこの作品が映画初主演の女優・松たか子と上京して大学生活を始める主人公を、重ねざるを得ない。意図的な演出、なんだろうなあ。
で、そこから綺麗な絵が続く。桜の花びらが雨のように降る並木道、新入生で溢れかえる大学の瑞々しい様子、洒落た建物が並ぶ街並み。そこをちょっと野暮ったいセーターを着た松たか子が初々しい雰囲気を発散しながら歩いたり、ワンピースにリュックサックでママチャリを漕いで走ってくれたりするのだからたまらない。
松たか子のPVである、とこの作品を揶揄する声もネット上のレビュー記事では見かけたけれども、でもそんな範疇越えちゃってるよこの作品。物凄く綺麗だし、瑞々しいし、女優松たか子の貴重な一瞬の時間を切り取って作品に納めている、と感じた。光の使い方とか、目線の動かし方とか、会話の間とか、「ああ、あるある」ってなっちゃいそうな会話のキャッチボールを取り損なったあの気まずさとか、全体的に抑制が効いた印象だけれどもそれが変に映画に起伏を作らなくて、良い。
観ている最中は正直「ちょっとかったるいかな」と思ったものの、いやいやしかし、観終わった頃にはしっかり「何だか不思議と」「妙に」心に残るものがあるし、きっちり充実感というかそういうのまで味わっちゃっている。
物語的には何も始まっていない、というかさあここからでしょうというところで終わるのだけれども、僕って昔からそうやってエンドロールの後を想像させらるようなのって、自分の心の中で物語がずっと続いていくようでなかなか余韻から抜け出せなくて好きなのね。
この切なさやどこかにスンッと残る感覚は、瑞々しくて初々しくて、でも真っ直ぐなあの映画自体のベクトルと作品自体の美しさに対する羨望と、自分自身に全くそういった要素がない事に対する遣る瀬無さだったりするのかな、と思う。
こういう「ああああああ、綺麗だなあ良いなあ美しいなあ清々しいなあ、だからこそ辛いなあ切ないなあ」という感覚は、なかなか得難いものがある。
コメント
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四月物語は、大林宣彦監督の「さびしんぼう」だとか、故 市川準監督の「BU・SU」を思い出します。
何方も富田靖子という女優の“魅力”が一杯でした。
もう十数年前になりますが、四月物語の台本の複製本だかに岩井俊二監督にサインを頂いた覚えがあります。その際、そのような話をして嬉しそうにされていたのを思い出しました^ ^