湊かなえ『告白』

続・我が逃走

映画が劇場公開されており、話題になっている湊かなえ著『告白』を読了。

実質ほぼ一気読みしてしまうくらい楽しめたので、これは記録しておくしかあるまいという事で今キーボードをタイプしている。

しかし本書に関して僕は極めて普通の感想しか持ち合わせておらず、また僕の堅い頭では柔軟な発想を以ってして作品を理解しようという発想も生まれなかったので、何だかひどく堅物というか、酷く極端な『読書感想文』になってしまわないか危惧している。なので細かく感想を語る前に一言で本書の感想を表すならば「面白かった!」である事を予め述べておく。

さて、粗筋である。

我が子を校内で亡くした女性教師が、終業式のHRで犯人である少年を指し示す。ひとつの事件をモノローグ形式で「級友」「犯人」「犯人の家族」から、それぞれ語らせ真相に迫る。選考委員全員を唸らせた新人離れした圧倒的な筆力と、伏線が鏤められた緻密な構成力は、デビュー作とは思えぬ完成度である。



中学、高校時代、そして何であれば今なお『犯罪嗜好癖』ともいうべき嗜好を持ち合わせている僕からすれば、この作品全体に漂う雰囲気、そして登場人物の思考というのは物凄くくすぐったい。常人ならば「アイタタタタ」となるべき所が「あー・・・・あったなあ」になってしまう悲しさ。往々にして思春期の自意識、自己顕示欲という奴はそれを満たすだけの満足すべき自己が現実的な観点で成立していないと(例えば周りから認められている、何かしらの明確な成果を出しているetc.)負の側面に向かって突き進み、「自分は特別な存在である」という自己認識を成立させようと『暴走』する。連続殺人犯の心理状態や所謂犯罪学を研究している人間、そしてそういった分野に興味を示す人間がそうであるわけは勿論ないけれども、僕という奴はそんな裏打ちを元に日陰者として人生を全うしようとしていた。もしここを訪れていらっしゃる方が自分に少しでも思い当たる節があるならば、是非本書を読んで過去を悔いると心地良いこっ恥ずかしさを愉しめるはずだ。

で、何故そう薦めるのかといえば本書に出てくる語り部たる少年少女達は「そんな」歪んだ自己意識の持ち主である。起因がどこであれ、生活環境が何であれ、そして何とお題目を唱えようと彼らは「イタイ」人間だ。それはもう完全に「イタイ」人間だ(まあ、何だ、犯罪者の生活環境や家庭環境、そして自意識から成る犯罪自体がイタイor痛々しいと僕は思っている。これはまあ勿論異論あるだろうけれども)。

しかも適度にリアルだからこそ余計に何か、嫌だ。

で、その辺りの生々しさはあれども物語の進め方というのは適度に『ご都合主義』である違和感を感じる。

幾ら母親が化学者で自身もその分野に才能があれども、中学生が犯罪を立案しそれを行使するのには無理があるし、そして作中で物語を転がす上で大きなファクターたる病気の扱いに関して、著者は本当にあらゆる医学的見地から研究した上でそれを使ったのか、と疑問にも思った。それだけ非常に扱いが繊細な話題であるわけだし、現に本書での病気の描かれ方が読み手に随分と誤解を与え(それは嘘ではないかもしれないが、少なくとも書き手の怠慢、と謗られても仕方のないはずだ)てしまいかねない事に対して苦言が呈されている。

しかしまあ、フィクションである。それに本書は粗筋の巧みさというよりも本書を読んだ事で色々感じる、その手触りこそが今話題になっている根本的な求心力だと思うのでそこはさして重要でもないのだろう。少なくとも一冊のフィクションとしては。

とりあえず一気読み出来る良作。ただただ話題になったわけではない。少なくとも以前読んだ「女教師が担当クラスの生徒に復讐する」という同じようなプロットの作品(こちらはもっと直接的な方法ではあったが)よりかは全然納得出来るし、読後に何がしか残るものがある。

というかここまで長文書いている段階で僕は本書を自分で思っている以上に楽しんだんじゃないか、とさえ思える。

森口先生の語り口に、好感をおぼえました。

コメント

  1. Spring Perfume より:

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    犯罪心理には私も興味があるよ。私もイタイ子だったからね…あ、今もか(゜∇゜)
    映画を観たっていう女性の友人・知人は、結構な率で「暗い+残酷+血」で重かったと不評で、映画は迷ってるんだけど、本で読んでみようかしら。

  2. 舟橋孝裕 より:

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    >Spring Perfumeさん
    犯罪心理に興味があるからってイタイわけじゃあないでしょうにw
    僕みたいな半分犯罪マニアみたいな諸々あるのがイタイんだよw
    映画、後味悪過ぎて逆にスッキリする、と僕の周りで好評だよ。

  3. Spring Perfume より:

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    実は秋葉原の事件とか、少し気持ちがわかってしまう人だよあたしゃ。
    やらないし罪は罪だけど、彼を自分と重ねてしまうところがある。。
    なんか、色々語りたい!舟橋くんと猛烈に語りたいよーーー!!