鼻毛。

例えばあなたは右の鼻の穴から顔を出している鼻毛に気付いたとする。あなたはその鼻毛が気になって仕方がない。あなたは一念発起して忌むべき鼻毛を抜く事にした。

鏡を前に、鼻毛をピンセットでつまんで、襲いくる痛みをイメージしながら少し引っ張ってみる。ピンセットをつまむ指に力を入れてゆっくりゆっくり引っ張ってみる。想像以上の痛みにあなたは思わず指の力を抜いてしまう。
するとああ、拘束をとかれた鼻毛はピンセットの先からするりと抜けてしまう。
残るのは刺すような痛みの余韻だけだ。だがその余韻だけであなたの決意は揺らいでしまう。あなたはどうするか。どうすべきか。

宜しい、あなたは賢明で勇気ある人だ。それは私も知っている。あなたは勇気を奮い起こし再びピンセットを持つ手に力を入れる。

よし、掴まえた。あなたは指先に力を入れ、痛みに襲われたとしてもそこだけは力を緩めまいと決心する。力を入れる前、あなたはピンセットで鼻毛をつまんだまま自分に言い聞かせる。
今回もしくじったらまた同じ痛みを味わうだけだ。鼻毛を抜くのは途方もない痛みが伴うが、しかしてそれは一瞬。この一瞬は歯を食いしばってでも耐えるんだ。

決意を新たにしたあなたは再び鼻毛を引っ張る。先程より力を入れて、確実に。だが繊細に、だ。
あなたの努力と決意の賜物か、鼻毛は無事にあなたの右の鼻の穴から駆除された。ピンセットの先端には鼻毛がつままれている。

あなたはそれを見、そして小さく溜息をつく。そしてあなたの右目には涙がうっすらと滲んでいる。右目だけである。

鼻の穴の中の神経は目、或いは痛覚に直結している。あなたの右目が涙にぬれるのにはそこに原因があったのだった。

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