妻と娘(長女と次女)達は義父方の実家、伊勢志摩に帰省中。
舟橋、社宅での一人暮らし2日目である。
起床して前日の模型制作をそのままに、水500mlを飲んでシャワーを浴びて出勤。
いつもだったら素焼きナッツの小袋20g弱を朝食代わりに食べているのだが、この日は計画的に夕食まで絶食する事に決めていた。
週末こそいつでも冷蔵庫を開けられるため、口寂しくなってなんだかんだでチョコチョコつまんでしまう事も少なくない。しかしながら平日はそうはいかない。平日、出勤中は食生活を律しやすい。
いつも昼食のおにぎりを購入するコンビニもこの日はペットボトルのブラックコーヒーと気合いを入れる用のノンカロリーのエナジードリンクを買うのみであった。
起床から家を出るまでの間と出勤途中で立ち寄るコンビニエンスストア、この2点を注意すれば朝食と昼食にカロリーを摂取する事なく、夕方まで走り抜ける事が出来る。おっといけない、職場の休憩室には有難い事にお菓子類が置いてある事が多くこれがなかなかに誘惑的。食後にちょっとした甘いお菓子とかつまみたくなってしまうんだよな。
しかしながらお菓子の誘惑も意志の力で跳ね除けて、この日は無事にカロリーを摂取せずに仕事を終えた。
職場を17時30分頃出て、普段ならまっすぐ帰宅するところを上前津に寄り道をする。
家族が外出中ならば、どうせなら今しか出来ない事をやろうじゃあないか。前夜の「机上をそのままにしながら模型制作」に続き「仕事からの帰路で寄り道」開始。
まずは上前津の行きつけだったけれども最近随分とご無沙汰してしまっていた中古エフェクター店へ。
多分次女が生まれてから足を運んでいなかったのだけれども、変わらず棚一杯のエフェクターが出迎えてくれる。
Gamechanger Audio製のリバーブ等、気になるペダルを試奏させて貰ったりしつつ(ちなみに自然”ではない”残響音を出す事に全精力を傾けており最高にホラー映画な音がした)所謂ジャンク品が入れられた箱を見やると気になるブツが。
古いGuyatoneのコンプレッサーである。
『DRIVING BOX』。この名前でコンプレッサー!
訊くとLEDが故障しているだけで動作はするそうだ。いやそれでジャンク品扱いだなんてと思いつつ、音を出す。
ダイナコンプを彷彿とする割り切りの良い圧縮具合が好印象。
馴染みの店員ヒラシマ氏が「舟橋さん、このペダルなんですけどね、僕も仕入れてから気が付いたらんですけど」と言いながら裏蓋を開けてくれる。
なんて事だ、基盤と筐体を絶縁する絶縁体に瑞穂区役所の民生子ども課から発行された通知書が使われているではないか。
思わず「買います」と口に出た。
前オーナーのどうしようもない程の生活臭を感じ、ああこれこそが中古ペダルの醍醐味と痛感したのだった。
LEDなんて自分で仕入れて交換してやれば良い。幸いそれくらいの電子工作スキルは持ち合わせているはずだ。
エフェクター屋店内で立ったりしゃがんだりを繰り返している間に、立ちくらみがした。
たまたまであろうけれども、その立ちくらみによって自分が空腹である事を思い返した。そうだそうだ、このために朝から絶食していたのだった。
中古エフェクター屋程近くの気軽に入れる二郎系「豚山」へ入店。
二郎系ラーメンだなんてコレステロール的にもカロリー的にも絶対に悪である。
食生活の改善によってコレステロール値も正常値になったばかりか、大学生の頃くらいの体型、体重に戻った今の僕にとっても悪手のはずだが二郎系ラーメンは一杯1300カロリー程(スープ含む)と聞く。
朝からカロリーを摂取していない状態であればこの一食で済ませておけば基礎代謝カロリーの範囲内、かつ食後に歩いて帰宅してなんなら翌日も軽く絶食すれば消化とカロリーの観点から考えても許容範囲に収まるはずであった。
随分と乱暴な対策であるけれども、それ程までにして久しく食べていなかった暴力的なラーメンを食べたかったのである。
ジョッキに水を注ぎ、一息に飲み干す事2杯。十分過ぎる程水分も摂取した。恐れる事はない。
コールは決まっている。「ニンニク少し」だ。
小ラーメン(ニンニク少し)着丼。
胃がびっくりしないように野菜を少量ずつ口に運び、入念に咀嚼して飲み下す。美味い。
豚山についてはその気軽さ故に自分の中で少し舐めていた部分があった事は否定出来ないけれども、こんなに美味かったか、豚山の小ラーメン。これまで生きてきた中で口にした二郎系の中で一番美味いんじゃないか。
数ヶ月ぶりであり、かつ20時間ほど絶食したという状況が豚山の小ラーメンを得体の知れない程に美味い一杯へと昇華させていた。この感情は感謝、感謝以外の何ものでもない。有難う、有難うと心の中で呟きながら麺をたぐり、啜り、咀嚼して飲み下す。飲み下しながら次の一口のために箸を動かす。あっという間に丼の中は空になった。最早、野菜の一欠片とて残ってはいないのであった。
「ご馳走様でした、美味しかったです」
店員さんの接客態度はいつもの事ながら爽やかで丁寧で気持ちが良い。絶対にまた来よう、次の絶食はいつにしようか、と思った。
寄り道最終章は大須の模型散策である。
キッズランドで塗料を買い、一度覗いてみたかった駿河屋へ地図アプリを頼りに足を運ぶ。
こんなところに、という場所のビルの上階に駿河屋はあった。うん、やはりマシーネンクリーガーは中古で探すのが面白い。次はこれを買おうか。そうかこれは中古市場だとこれくらいの価格なのか、このキットは初めて見るな等、いささか情報量過多で大変愉快な心持ちになってビルを後にした。
徒歩にて帰宅。
ドカ食いの罪悪感を打ち消して「明日も絶食して消化に注力しよう」と決意を新たにするのであった。