吉田「こんにちは!!今日が何の日か知っていますか!」
(中略)
ジャァァァァァァァァァァン
ジャギンッ!!
吉田「有難う!」
お客さん『フウゥーイィ!』(同時に拍手)
吉田「ところで(以下略。我々がいうところの”小粋なトーク”である。ちなみに吉田君駒田君共に相槌を求める時と困った時は僕の方を見る癖があるのだけれども=多分何となく落ち着くんだろう、 吉田君の”小粋なトーク”に耳を貸しながらチューニングを終えて顔を上げると思いっきり吉田君と目が合った)なんだよね!あっとなんだよこの空気!(吉田君はスベリ芸なのかっていうくらいスベルのが好きなようでMCもスベり始めてからが真骨頂だと思う。この発言はMCがどれだけグタグタでも演奏は本気、鳩尾を殴るような演奏をしている自負の表れだと思って頂いて、うん、どうかな、良い、のかな?)残念な事に僕達のライブも残り5曲となりました」
変拍子のリフ
不協和音
飛び交う汗
浮かぶ苦笑
ぶん回すようなアンサンブル
ライブは進んでいく。良い演奏だろうと悪い演奏だろうと同じ時間の進み方をするはずなのに、良い演奏の時は時間があっという間に過ぎるように思える。もっとこの演奏を楽しみたいのに、とか思うわけだね。
ライブは吉田君が例のアレをする曲まで進んだ。静観を決め込んで、何かあったら僕も茶々を入れるとするかね、とドリンクを一口(ライブを観た事がない人には何が何やらの解説ではあるけれどもご容赦頂きたい)。
ここで僕は何となく腕時計を見た。本当に何となく、である。
この日はパイプカツトマミヰズでのライブを終えた直後、演奏終了予定時刻から30分後にライブ会場である新栄CLUB ROCK’N’ROLLから徒歩5分、新栄DAYTRIVEにて犬栓耳畜生としての演奏が予定されており、時間の余裕は30分あるとはいうものの、機材も共有なのでパイプカツトマミヰズの演奏が終わったら可能な限り早く移動して機材のセッティングを行い、犬栓耳畜生のライブに気持ちを向けたい(格好良く言ったけれども、着替えたり休憩したりそんなんである)なと考えていた。
そのため、客席から見えない角度である僕の脇にはベースギターのギグケース、そして財布やら何やら全部入っている肩掛け鞄諸々、舟橋の私物の全てが置いてあった。演奏が終わったらそのままそれを抱えて飛び出せる状態である。
普段は外す事も少なくない腕時計を、この日たまたまつけていたのもそういう理由である。
で、腕時計を何となく見てたまげた。デジタル表示は17:56と30秒を示している。17:30から30分間が僕達の演奏時間であり、つまり残り3分30秒で持ち時間は終了する。その時点で僕達は演奏中のその曲以外に2曲残していた。
舟橋「ピンポンパンポーン、吉田君、業務連絡です」
吉田「何?」
舟橋「持ち時間、残り3分30秒です」
吉田「え!」
持ち時間を守る事とお客さんを楽しませる事とより高い次元での表現を実現する事、その他様々な要因の中で何を優先すべきかは多くの意見があるだろう。事実、人によっては「金を払ったお客さんを楽しませるためには多少持ち時間をオーバーしたってしょうがない」と言い放つバンドマンもいた。僕にはそれに対する自分的には筋道の通った反論が幾つか思い浮かぶけれども、世の中の真理として、極限の真理としてどれが一番正しいかなんてわからない。
だけれども単純に持ち時間を守れないバンドマンっていうのに自分達がなりたくはない、と思う。
舟橋「BPMをそれぞれ5ずつ上げて演奏すれば残りの時間で演奏を完了する事も可能なのでは」
吉田「そういえばBPMって何の略なんだろうね」
舟橋「えっと…Bandman no Pop na Motion?」(私はこの瞬間の自分の愚かさをいつまで呪う事になるのだろうか皆目見当もつかない)
一同「…(この沈黙は人を殺す事が出来る、と思う)」
吉田「ごめん、実は俺知ってた。Beats Per Minuteね」
舟橋「はいこのやりとりで20秒ロスト。BPMを10ずつあげて演奏します」
その瞬間に駒田君に去来したものは何だったのかは定かではない。
だけれども数秒後彼がとった行動というのは恐らくその場にいた全員の予想を裏切ったものだった。
誰が想像し得ただろう。まさか本当に残りの2曲、テンポ早めでスティックカウントするとは。
「はええええええ」と言いながらもなんだかんだでちゃんと演奏するバンドメンバーと自分のアンサンブルを感じながら、どこかで冷静に「何だかんだでやれば出来るじゃん俺達」と思ったとさ。
自分達で思ってるよりかは少しは、ほんの少しは演奏力が高いのかもしれない。
それでもきっと歴戦の猛者達には遠く及ばないのだろうけれども。精進せねば。
追記:
2分押しました…関係者各位にこの場を使ってお詫び致します。
コメント