不完全密室殺人の東京初遠征について、記憶が鮮明なうちに記しておこうと思う。
数多くの善意ある協力者の皆様の力添えによって成立した東京遠征であったが、その結果はと言えば、公演自体は前代未聞、未曾有のハプニングの中幕を閉じたのであった。
ご存知の方々もいらっしゃるだろうが、「不完全な密室殺人」というバンド名が象徴するように我々のバンドにはサスペンスやホラーだけでなくコミカルな要素、ファニーな要素も含まれている。無自覚であるにしろ、自覚的であるにしろそれは最早我々自身否定できないだろう。
18回公演、19回公演と行われた「帝劇の怪人」はそれらの要素が過去の公演より僅かに多く含まれているのだが、第19回公演は脚本が有するその分量よりも結果的にその数倍のファニーさを発散し得る公演になってしまったのだった。
公演終盤にそれは起きた。山田康裕、またしてもギター破壊。楽器を供物としてディストーションゴッドに供えるその行為に、一体今まで何人のギタリストが手を染めてきたであろう。その行為の是非はこの際問うまい。しかしながらその行為の持つインパクトについては誰しもが認めねばなりますまい。
しかして、彼には換えのギターがない。あろうはずもない。彼に出来たのは各務鉄平からギターを借りて最後の曲を演奏する事だけであった。幸い、我々の曲目においてはギターを一本しか使わない曲だったから良かったようなものの、果たしてどうするつもりだったのか。ともあれ、事態は収束したかのように見えた。
だが。
音が、出ない。出ないのである。不幸というのは重ねてくるものとは言えど、元はと言えば自らが招いた結果、我々にはどうする事も出来ない。彼は恐るべき行為に出たのだ。
くちギター。
唖然とした。馬鹿な。
我に帰った犯人役は彼にこう声をかけた。
「山高(注:今回の山田康裕の役名)君、どうせならフロアに降りて生音をお客様に聴かせたまえよ」
どうしてこのような事を口走ったか、今思うと自分でもわからない。数分後、池袋手刀のフロアにはエレキギターを掻き鳴らし生音を届けようと可能な限り客ににじり寄ってギターを弾くスーツ姿の男に、舞い踊りながら歌を歌う蝶ネクタイの男、フロアに座してピアニカを吹く若者に、灰皿をパーカッション替わりにリズムを刻む男がいた。
これが、今回の公演の恐るべき顛末である。
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