夏になると学生時代の癖が抜けないのか、毎日が夏休み状態のフリーターを営んでいるというのにはしゃいでしまう。
毎晩のように練習があるというのに毎晩のように明け方まで遊び狂い、日中朦朧とした意識の中で生活をする。それでも夜になると目が冴えるのだから不思議だ。
さて、そんな僕の心を浮かれさせてやまない夏の夜だが、先日のライブの打ち上げの席でふとした弾みで廃墟探索へ赴く事になった。とは言っても計画を推進したのは僕で、一番乗り気だったのも僕に他ならず、巻き込まれてくれた参加者には感謝しきりである。
結局、集った面々を眺めるとバンドメンバー、親しいバンドマン、大学時代の後輩とお馴染みの面々。お互いに気心の知れた総勢8人、マーチ2台で愛知県は瀬戸市、JR定光駅にある廃墟へと向かったのだった。
学生諸子は試験が終わったという開放感があるのだろう、始まったばかりの夏休みを早速満喫せんと興奮している様子だったし、先導するマーチの車内も楽しそうだ。そして僕はというとこれがもう冷静を保とうとして保てず、その実表情や態度に出している以上に興奮していた。
僕みたいなタイプというのは旅行の計画を立てるのも楽しんでしまうタイプで、今回の廃墟探訪もご他聞に漏れず事前調査から大いに楽しんでいた。事前調査の段階で色々と夢想していたものが現実になろうとしている。興奮せずにいられようか。
で、現地に着いた。名古屋市街とは違い、暗闇が辺りを支配する。神田佑介が目標を発見したと対岸を指す。遠藤君が持ってきていたハロゲンライトで照らし出したのは、まさしく目標とする廃墟。
かつては多くの人がそこで寝泊りしながら、今はもぬけの空となってしまった大きなコンクリートの塊である。
川のせせらぎのさらさらごうごうという音しか聞こえてこない中、突如としてその姿を現した廃墟。
外観だけで廃墟であると知れる、有無を言わさぬ気配。人が生活していない、誰も立ち入ってはいないのに気配とはナンセンス極まりないのだが、廃墟には廃墟なりの気配というものがあるのだろう。その『妖気』と形容しても差し支えないような底知れぬ不気味さは、きっと日中にそれを目にしたとてさして変わらぬであろう。
我々は対岸へ、その廃墟へと向かった。
続く
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