真藤順丈『庵堂三兄弟の聖職』

続・我が逃走

ふとした折に気に留め購入したい本リストに入れていたものの、ハードカバー故なかなか手が出せずにいた本書。ちなみに日本ホラー小説大賞 大賞受賞作。

幸運にも渋谷の大型中古古書店でセール中にて半額で購入出来た。

まずは粗筋を。

庵堂家は代々、遺体から箸や孫の手、バッグから花火まで、あらゆる製品を作り出す「遺工」を家業としてきた。長男の正太郎は父の跡を継いだが、能力の限界を感じつつある。次男の久就は都会生活で生きる実感を失いつつあり、三男の毅巳は暴走しがちな自分をやや持て余しながら長兄を手伝っている。父親の七回忌を目前に久就が帰省し、久しぶりに三兄弟が集まった。かつてなく難しい依頼も舞い込み、ますます騒がしくなった工房、それぞれの思いを抱く三兄弟の行方は?第15回日本ホラー小説大賞大賞受賞作。

web上の書評を閲覧していると「登場人物の書き込みが足りない」「話の展開が読める」「まず第一にホラー小説ではない」等とネガティヴな評価を相応に目にする。成程、確かに一家を描いた家族物語として読むにはもっと三兄弟の日常が読みたかった(助走前にゆっくり歩いているところから写した方が跳躍は躍動的に見えるだろう)し、所謂この国で『ホラー小説』が一般的に認知、愉しまれるようになってから世に出た『ホラー小説』のような『怖さ』は本書にはない。観たら一週間後には死んでしまう呪いのビデオは出てこないし、ミトコンドリアの叛乱も描かれていない。保険金目当てに指を切り落とす心のない人間もいないし、気がついたら火星のような荒原にいたりもしない。脳味噌を料理する連続殺人も描かれないし人間に寄生する怪鳥はいないし勿論文通魔もいない。くどいようだが本書には斧を持った父親に追いかけられてホテル中を逃げ惑うシークエンスは存在しないし、狂犬病に冒されたセントバーナードも出てこない。ここまで様々な例をあげつらったのは、何も自分の読書範囲の狭さを主張(「僕はホラーといったら角川ホラー文庫とスティーブン・キングしか読んでいませんよっ」ってなもんだ)したいわけでもない。

つまりそれほどホラー小説に疎い僕でも、本書を読んで「怖い」と思ったのだ。

確かに全編恐怖の連続、緊張感を強いられるわけではない。全体の中のほんの一握り、ふとした瞬間に恐ろしさを感じる。しかも仄かな恐ろしさ。強烈なインパクトを伴わないが故に、背筋にスルリと入り込んでくるような肌触り。成る程、ホラー小説を期待して本書を買う向きには、確かにホラー要素が圧倒的に不足するだろう。

しかし僕は別段ホラーだとも思わず本書を読んだ。そんな僕には長男の独り言、“壊れて”しまった極道妻、そして手紙の最後の一文にほんの少しの恐怖を感じるのである。人間の心の持つグロテスクさ、とでも言おうか。

一つの家族の「再生」の物語として捉えるとする。

起承転結が実にスッキリとまとめられている。どんどんどんどん話は進む。骨組みを組んだ後は、深呼吸の後一息に書いたような、そんな印象すら受ける。それを「無駄な贅肉をそぎ落とした」ととるか「肉付きが不足している」と捉えるか二極化する気がするけれども個人的には好印象。筆圧が伝わってくるような文章はグイグイ読ませてくれる。

職人としては腕前はいいが、作品の雰囲気から一歩引いてみれば確実にアブナイ人の長男も、「糞」(汚言を受け付けれない人は本書の読了は難しいかもしれない)を連呼する三男も、冷静でどこか距離を感じる次男も愛おしいキャラクター達だ。

酷評される程ひどいとは思わなかったけどなあ。

それどころか僕は相当愉しんだけれど。ガツガツ読んじゃったしなあ。批評とか苦手なのかしらね。

コメント

  1. ろび より:

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    読むのはや!

  2. フナハシ より:

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    >ろびさん
    wwww
    面白くてね、止まらなかったのだよw

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    フフフ…
    何だかニヤニヤしながらこれを書いた舟橋君を想像したよ。

    確かに批評って難しい。
    でも、批評ってあくまで個人的な意見でしかないわけで。
    例えばその批評を書いてる人に賛同するならその人が奨める本も気に入るやもしれぬ。
    逆に反感を覚えるならそのが酷評するものが面白いかもしれないわけだ。
    まぁ、おおざっぱに言ってね。

    でもそもそも好みなわけで、面白いと思えるものが多いに越したことはない。

    音楽にも共通することだけれど、幅広いジャンルを楽しめる方が断然得だと思う。

    裸の王様の如く周りの言葉ばかり気にかけるのは損というもの。

    肝心なのは、自分が読んで面白いか面白くないかなのだよね。

    あっ、偉そう?
    ごめんね~(笑)

    眠い~(´Q`)。oO

    風呂入りたい!酒飲みたい!

  4. 舟橋孝裕 より:

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    >ピコ・ピコリンさん
    全くその通りですな。
    料理も読書も音楽も、僕ってば結構ざっくばらんに楽しめるので人生得していると思います。