フランケン・ジャズシジョン・ベース

僕は蘇生させた楽器を使うのが好きだ。

楽器演奏者として元々、あまり高い楽器には興味がない。一本ウン十万もする楽器は自分の現在の生活ではまず購入する事さえ出来ないだろうし、それを酷使するのも気が引けるし、何より僕には過ぎた代物だと思う。

良い木材を使い、それを高精度で組み込み、その素材を活かしたピックアップで出力する。成程、楽器としてそれは確かに優れているのだろう。だがしかし、それを買って使おうとは思わない。まして扱いに気を使うヴィンテージ価格の楽器ならば尚更だ。

だがしかしそれが所謂『奇妙な』楽器ならば話は別だ。

玄人好みしそうな高水準で作られた楽器よりかはビザールとされるような奇妙な代物、珍妙な楽器(勿論それらの中にも楽器として高水準のものは確実に存在する。ジャパニーズ・ヴィンテージを侮るなかれ)に心惹かれる。

とりあえずはベースギターというものがある程度は演奏出来るようになってから購入した楽器はそのほとんどがスタンダードなジャズベース/プレシジョンベースタイプのものではなくムスタングだったりそれこそYAMAHA社製のSBVシリーズだったりと『スタンダードでない』楽器ばかりであった。僕は楽器の演奏歴のかなり当初から、人とは違う楽器に心奪われてきたのである。

同時に僕は、大型質屋のジャンクコーナーに飛び込んで楽器を発掘 するのが好きだ。綺麗に陳列されている楽器コーナーよりかは叩き売りされている「難有り」とされているジャンクコーナーにこそ僕は注目している。

学生時代より続けてきた楽器店でのアルバイトで、僕は多少のリペア技術は学んできたわけであるし、電装系の異常ならばそれは僕にとっては比較的手軽に修理出来る範疇の異常であるし、仮にソフトではなくハードに難が有ったとしても(恐ろしくネックが反っている、とかはげんなりする。僕は反ったネックが大嫌いだ)使えるパーツを取り出して再生する材料に使う事が出来るからだ。

当然中にはどうする事も出来ない楽器も存在するが(ジャンクコーナーに置いてあるものの中には本当にどうしようもないものも混ざっているのである)、それはそれ。叩き売り同然の値段であるわけで運がなかったと嘆く他あるまい。

リペアマン、クラフトマンと呼ばれる技術者が世の中にはいる。そんな大それた存在ではない。

僕は人から見向きもされないような楽器を現場で使う事に言い知れない興味をおぼえるのだ。

楽器の再生屋、そしてそれを演奏する演奏者。

低コストの楽器でも然るべき調整を施してやれば価格以上のスペックを発揮するものが意外に多い。

5万円手元にあるならば5万円のベースを買うでもなく、3万円の程度の良い安価な楽器を購入して残り2万の予算で手を加える。僕が楽器に向かう姿勢というのはそういう具合だ。

近所の大型質屋で、これまた珍妙な楽器を発見した。ボディはジャズベース・タイプなのだがワンボリューム/ワントーン。ピックアップも奇妙なものがとりつけられておりヘッドは真っ黒に塗装されている。ボディの塗装も何だかチープだ。僕はこの得体の知れない楽器に魅了された。何と言っても価格が3,150円。素晴らしき哉、ジャンク品。

僕はワクワクしながらそのベースを握って(ジャンク品だからケースは勿論ついていない)店を後にした。この楽器、見たところネックは反っているが或いは反りを修正する事が出来るかもしれないし、ネックを付け替えれば面白い楽器になりそうだ、と。

しかしその後、所要があって立ち寄ったLOVELESS GUITAR にて衝撃的な事実が明らかになる。トラスロッドは回りきり、それでも反りが直らないこのベース、あろう事かショートスケールである。迂闊だった。僕とした事が浮かれるあまり、スケールの事を失念していたのだ。

失意に僕にLOVELESS GUITARの岡田さんが救いの手を差し伸べてくださった。

その得体の知れないベースについている得体の知れないピックアップ、僕のジャズシジョン・ベースに移植出来ると仰るのである。僕の奇妙で歪な楽器偏愛をご理解頂いている上に、僕の趣味嗜好をよくご理解頂いているのであろう、低域をほとんど拾わず、どう考えてもそのお粗末なピックアップを救出して頂く事になった。

人と同じ楽器を使う事に抵抗のある僕は、プレベのボディにジャズベースのネックを取り付ける だけでは飽き足らず、そのベースのボディをガムテープで覆い包む という暴挙に出ていた。歪な見た目に飽きてしまった僕はそのガムテープさえも綺麗さっぱり取り去っていたのだが、それと同時に音は良いプレシジョン・ベースに対する興味も失っていた。珍妙にして奇妙なピックアップを搭載する事で楽器に対する愛着も湧くだろう。何せ得体の知れないベースの得体の知れないピックアップを、音の良いプレシジョンに搭載するのは僕くらいなものだろうから。

結果、出来上がったのがこれ。

続・我が逃走
高精度でのザグリによって見事得体の知れないピックアップが搭載されたジャズシジョン・ベース。
プロトタイプという事で、今後ピックガードを取り付ける予定だ。

・・・・良いじゃあないか。

見た目もレトロ感と無骨さが同居した、何とも言えない素敵なデザインに仕上がった。

音?フロント・ピックアップ(元・得体の知れないピックアップ)のボリュームをあげていく事で「元々搭載されていたクオーターパウンド+得体の知れないピックアップ」のハムバッキング方式で音が出力されるのだけれども、これが何とハムバッキング方式なのにクオーターパウンド単体で音を出力した方が音が太い。

得体の知れないピックアップの音が足されていくにつれて、低域がカットされていくという計らずも「このピックアップは本当にショボいな・・・」という事実を証明する事になってしまった。

でも、良いのだ。

これで僕は世界の一本のベースを手に入れた。3本のベースの合体(フランケンシュタイン博士が罪人達の死体からクリーチャーを作り出したようなもので、これぞまさしく"フランケン・ベース”)によって出来上がったベースギターに対する愛着もひとしお。

とりあえずはこのまま使ってみて、今後ピックガードを搭載して楽しむ予定である。

あ、勿論ライブで使っていくよ!

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