自慢じゃないがファズは良いものを幾つか所有している。今現在手元にあるものはどれも手放せないものばかりだ。
どんなアンサンブルでも主張出来るアレ、ポンと置いてフルテンにすれば格好良い音がするコレ、問答無用にシビれる音が出るソレ、兎に角馬鹿デカく、そして雷のような音がするアイツにあのレコーディングやこのレコーディングで使った野太いコイツ等、僕の手元にあるファズはベース専用機に限らず良いファズばかりだと思う。
勿論、所謂『当たり』ばかりではない。機材選びは投資とチャレンジの世界、試奏コーナーでそれなりの音量で弾いたってわかるわけない、ずっと付き合っていけるブツかどうかは大音量で現場で鳴らさないとわかりゃしない。だからちょっとでも気になったら買う。試奏して「コイツならいけそうだ」と少しでも感じられれば買う。
実際のところ、愚行であると思う。だってその中の半分、いや良く言い過ぎか、6割くらいはご縁がなくて自分の手元から旅立って行く事を僕は経験上知っているのだから。勿論ご縁がないブツとはもっと良いオーナーと出会えるように中古ショップに売るのだが、その段階でそのアイテムは中古品、ともすれば中古品の中古品で自分という所有者を経ている以上、値段も買ったそのままとはいかない。経済とはそういうものだ。買った金額-手元に残った金額=勉強代。そう思う他ない。
まったく、一生付き合っていけるブツなんてのは全体の4割にもひょっとしたら満たないのかもしれない。この割合、今でこそそうだけれどもその昔はもっと低い割合だった。
人間は経験をもとに学習する事が出来る生き物だ。僕は多くの投資とトライ&エラーを繰り返して何となく「ああ、こいつは長くお付き合い出来そうだ」というブツを選ぶだけの審美眼(耳、だろうか)を養う事が出来た。
きっと、最初からもっと優れた耳をしていればこんなに沢山のお金を勉強代として支払う事はなかったはずだ。僕はようやく人並みの選定基準を得たんだとそう思っている。真面目な話。
さて、エフェクター、とりわけファズの中でも弾いた瞬間に「これは俺の手元に来るべきアイテムだ」と思えるものがある。
ELECTROGRAVE RIPPER FUZZはそんな一台。「これは絶対に手に入れないといけない」とそう強く思わされた一因に「これじゃないと出ない音」がある。この言い回し、エフェクターをついつい買ってしまうペダルギーク達にとっては常套句なのだろうけれども兎角このRIPPER FUZZに於いては誇張でもロマンでもなく、歴然とした事実である。このファズじゃないと、出ない音が、出来ない演奏がある。
ビルダー小池さんが「完全に無音の瞬間を作る事で破壊力を追及した」と完成直後に興奮しながら教えて下さったけれども弾いてみてその意味がすぐにわかった。ゲイン値固定のこの強力なファズ(「ゲイン?そんなものいるの?どうせフルアップでしょ?」とは小池さんの弁)は本来であればオンにするや否や強烈なフィードバックノイズを放つであろうけれども、RIPPERコントロールによって音を発音しない限り完全なる静寂を実現したのである。SENSITIVITYによってその掛かり具合をコントロールする事が出来るのだが、左に回し切る事で演奏者は世にも不思議な体験をする事が出来る。
グッシャグシャに、バッシャバシャに歪んだファズサウンドが炸裂するのだが弦をミュートした次の瞬間、否、その瞬間、完全なる無音が辺りを包むのである。ゲートファズのそれとは完全に異なるこの異様な体験に僕は思わず笑ってしまった。
強力な轟音で辺りを薙ぎ払うような演奏をし、次の瞬間完全なる無音。彼岸と此岸を行き来する、何だかとんでもなくイケナいファズのような感じである。
僕が小池さんにオーダーしたのは只の一点、この素晴らしい兵器、RIPPER FUZZをベースギターで完全に使いこなせるようにするためにドライボリュームを搭載して頂いた。ドライシグナルとファズシグナルをブレンドする事でトーンの効きがこれまた極悪で面白いRIPPER FUZZの魅力を存分に活かす事が出来る、そう感じたのである。
完成品を受け取りに行った時、小池さんは興奮気味に「これで死角ナシ!」と言い放った。弾いた直後、僕はきっとそれ以上に興奮していたに違いなかろう、「死角ナシ!!」。
微妙な匙加減、というあんばいがこのペダルに必要かどうかは別として、微妙な匙加減の音作りも可能になってしまった。もう完璧だ、恐ろしく完璧だ。物凄くタイトな、休符だらけのリフだろうがギンッギンに歪ませてかけっぱなしで刻めるようになってしまった。
弾いてると「あれ、これって本当に歪んでいるっけ」とゲシュタルト崩壊を起こす程演奏にタイトだ。これをファズトーンと呼んでしまっていいのかわからなくなる。全く新しい、小池さんによる『発明』なのでは?
そんな風にさえ思えてくる。
これはもう絶対に手放さない。手放せない。
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