夏休みの過ごし方と人生初めての大腸内視鏡検査。

世間的には4連休、僕は夏季休暇3日間を組み合わせて9連休にしていたので今年の夏休みは随分と長かったが、これまた見事に特にどこに行くでもなくシンプルに休む事に終始したのであった。
断腸の思いでライブ出演を自粛したわけだが、その頃はまだ『県を跨いだ移動は自粛して下さい』という論調だったもんだから感染症対策はバッチリである、との情報も得たので映画館へ行ったりもした(余談だけれどもこれを書いている26日現在、市内でもどんどん感染者が増えている。これはもう不要不急の外出は控えねばならない奴だ。状況はどんどん変化している)。思えば当時は今より内的な悲壮感もなかった気がする。

何を観に行ったかと言えば『起動警察パトレイバー THE MOVIE』で所謂パトレイバーの劇場版一作目だ。パトレイバーにハマった頃に当然、この劇場版一作目は観たのだが今回はサウンドリニューアル版の4DX上映との事。また、まさか映画館でパトレイバーが観られるとは思っていなかったので情報を聞いた当初から是非行きたいと思っていたのだがタイミング悪くコロナウイルス感染拡大で上映も延期、ようやくこのタイミングで観に行く事が出来た。今の状況を鑑みるとあのタイミングでしか映画館に行く、なんて出来なかっただろうから(神経質かもしれないが僕は小心者なのでとりあえずリスクは現状避けておきたい)決断して良かったと思う。

さて、肝心の感想だが一言で言えば最高。最高以外の何物でもない。4DXは初体験だったのだがアトラクション感があって楽しいし、映画的にも4DXが映えるタイプのものだっただろうから楽しかった。結構ゴツゴツ動くんだな、4DX!
改めて映画としてパトレイバー 劇場版一作目を観るとやはり作品としての強度が物凄く高い。89年にあのテーマで作品を作り上げた事が時代を先取りしまくっているし脚本も押井守っぽい演出も(まだ劇場版二作目程色濃くない)効いている。
最高に楽しかったなぁ!

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そして9連休中、実はこれまた人生初の大腸内視鏡検査を経験したのだった。
事の発端は妻と娘と実家に顔を出している際、排便すると便に血が混じっており、お尻を拭いた紙を見ると真っ赤になっている。
以前も同じような経験があり、その際は切れ痔との診断だったので今回もそうであろうと思ったのだが、何の気なしに妻に話をすると横で聞いていた母が「絶対に病院に行きなさい」と強く薦めてくる。前回切れ痔の診断を貰った時は20代後半だったし確かに年齢も年齢だったので安心する為に前回尻の穴を診て貰った病院に行ったのであった。
歴史が長い病院であるし尻の穴関係であれば名古屋では有名な病院であるからして、月曜の午前中、診察開始時間と同時に飛び込んだもののやはり待ち時間は相応にあったが今回もやはり切れ痔との診断を貰った。
その折に「妻と母より心配な病気ではないか気にかけて貰ってまして」と話すと医師より「それじゃあ折角だから、大腸内視鏡検査、やりますか。安心するよ」と言葉が返ってきた。
なんだか大掛かりな事になりそうだ、とも思ったけれどもこういう機会には徹底的にやった方が良い、お願いしますと答えた。
血液検査を受けて入院の説明を聞く。前日夜、下剤を飲む事、当日は絶食する事、一日仕事になるであろう事、場合によっては入院になるからその場合の用意も念のためしておく事、帰りは家族の者に迎えに来て貰うように、等と話を聞き、料金についても説明を受ける。
ポリープ等なく、検査だけで済めば当日朝に支払う検査補償金の範囲内で済むであろうとの事。これは実際その通りで補償金2万円を支払った後、帰宅時に半分くらい返金された。つまり約一万円で安心を買えたわけだ。安いもんである。
日時についてはこちらから「可能な限り早く」とお願いすると翌々日に出来ますよ、という事だったのでそうお願いした。全てが連休中に解決すればしめたものである。

検査前日、指定された時間に下剤を飲む。錠剤3錠を液剤を溶かした水で飲み下したわけだが、よく漫画であるような飲んで直ぐに効果が出るわけではなかった。実際、服薬後30分で排便があったものの今思えばこれは生理現象によるもので、翌日早朝5時頃、便意で目が覚めてからの排便以降が下剤の効果によるものであったと思われる。

当日、絶食し妻に病院まで送って貰う。何分初めての事だし検査結果も気掛かりではあるので若干緊張するが、受付で名前を呼ばれ病棟に案内される頃にはちょっとワクワクしている自分がいた。
9時に名前が呼ばれ9時15分頃から説明が始まった。この日大腸内視鏡検査を受けるのは合計7人いるそうで、その内4名は入院しているようで僕と同じように受付に集合したのは僕以外に日焼けした壮年の男性Aさん、上品そうな女性Bさんの二人だった。僕が一番若造だ。話を聞くとお二人とも経験者のようで
Aさん「この病院も綺麗になったよねえ、昔はもっとボロボロだったのに」
Bさん「本当ですねえ」
と、そんなやりとりからも慣れている感がひしひしと伝わってきた。
個別に説明を聞き、こちらの家族構成やら体調やら問診を受けて下剤を飲み始めたのが9時35分。
最初の一杯は体に合うかわからないので用心の為15分かけて飲んで下さい、との事で問診を受けながら飲んでいく。一口飲んで思わず「美味しい!」と口に出してしまう程、想像していたよりも下剤は飲みやすかった。「大腸内視鏡検査で一番しんどいのは大腸の中を綺麗にする事だ」と人伝に聞いていたのでどんな酷い味のものが出てくるのかと戦慄していたのだがむしろ味の良いものでホッとした。味の濃い、多少トロミのついたスポーツドリンクのようである。これならグビグビ飲めてしまいそうだ。

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この下剤と水(ここは持ち込んだお茶、無糖の紅茶でも良い、とされていた)を交互に飲んでいく。排便の時間の記録を取るように、と書き込む為の用紙、クリップボードとボールペンを渡された。トイレの個室にはブザーが付いており、排便4回目以降は毎回便を流す前に看護師に見せて下さい、との事であった。
「では用意スタート!」ではなかったけれども案内された病室で3人が各々のペースで下剤と水(またはお茶)を飲んでいく。僕達3人は大部屋に6つ並んだベッドの中の、ソーシャルディスタンスを保つように離れた位置のものをあてがわれていたのだが黙って黙々と飲むわけにもいかずポツポツと会話が始まるのであった。

Aさん「昔はここに入院しててさ、結構日数があったもんだから皆で麻雀とかやったりしたんだよね。あと宴会とか」
Bさん「宴会!それっていいんですか!」
Aさん「勿論お酒は飲まないけどさ、お菓子とかジュースとか、皆でワイワイやってねえ。楽しかったなあ」

折角だから話に混ざりたいのだが僕だけ素人だ、ここは謙虚にいかねばならない。相槌がわりにニコニコ頷いていたら2人の視線が僕に向いたような気がした。自己紹介がわりに、ではないけれど
「今回が初めてなんです。緊張してます」
と僕。
以降はすんなりと会話に混じる事が出来た。
会話といっても勿論、間に不定期な排便が混じってくるので話しっぱなしではない。ポツリポツリと、排便よりは多くそして賑やかに、3人は言葉を交わすのであった。
会話の中心になるのはAさん。どうやらもう右手の指の本数以上は内視鏡検査を受けているらしい。プロだ。僕はAさんをプロ、と心の中で呼ぶ事にした。プロ曰く下剤も随分と飲みやすくなったようで、昔はそれはそれは飲むのがきつかったそうだ。
看護師さんとのやりとりも手慣れたもので、それが良いのかわからないけれど慣れた様子からは本当に玄人感が感じられた。
以下、プロのプロらしい様子。

・看護師さんから「4回目以降は毎回見せて下さいね、便」と言われていたのは前述したが、Aさんはどうやらその言葉通りにしていなかった。何故か排便のタイミングが重なった事からわかったのだが、Aさんは自分で看護師さんに便を見せるタイミングを計っているようであった。曰く「透明で、小便よりも少し色が濃くなった頃に呼びゃあいいんだよ」

・腹をさすりながら「今回はなかなかおりてこねえなあ」と呟く様。これは本当にプロっぽかった。「そういうものなんですね、毎回違うもんですか」「そりゃあ違うよ、体調によりけりじゃないかな」「成る程」

・落ち着いた上品な女性Bさんはなかなか下剤が進まないようで(一方僕は美味い美味いとグビグビ飲んだらプロに「いや、ペース早過ぎるよ」と窘められた)一時間半の間に一リットル飲んで下さいね、と言われていたけれど一時間経過した段階でまだ半分くらいしか飲めていない様子だった。Bさんがトイレに行っている間にBさんの下剤の残量を見たAさん「可哀想に、この子、ここからペース上げなきゃならねえぞ…」

実際僕達が一緒に過ごしたのは一時間半の事であったのだが、このポツリポツリと交わした会話や、これは初心者故の感情かもしらないけれども同じ境遇に置かれた者故の感情移入故か僕はAさんBさんに愛着さえ感じていた。
もっとお話したい、と思ったが僕の便は次第に液体になり(排便、というよりポンプのように水を押し出すようになるのだった。「うおおおお、俺は人間ポンプだ!!!」と妻に思わずLINEした)、検査を待つ病室へと案内された。最初に案内をされたのが僕だったので部屋を出る間際、Aさんに目礼を送ったのだがプロはこちらのそれに気付く素振りさえないのであった。その素っ気なさもプロらしさに拍車をかけて僕は思わず(徹底しているなあ…!)と感動さえ覚えたのであった。
検査を待つ部屋は大部屋との事であったが実際は二人部屋で、しかももう片側のベッドには誰もおらず事実上僕の個室であった。これはラッキー、と待ち時間を映画配信アプリで時間を潰すのであった。

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大部屋に案内されてからは検査用の下着に着替え、お借りした院内着に着替えて検査の順番を待つ。いつ順番が来るかはわからないとの事だったのでこりゃあ本当に夕方になるかもしれないな、と思ったが食塩水の点滴を受け始めて約一時間後、看護師さんが僕を検査室へと導きに現れた。

点滴のキャスターをカラカラ押しながら検査室へ向かう。なんだか、凄くそれらしいな、と呑気に思ったのも束の間、直ぐに検査台に横になるように言われいつでも検査を始められるような態勢になり先生がやってくるのを待つ。
血圧をモニターする機械に繋がれているもんだからピッ ピッという音が絶え間なく鳴っている。うわあ、ちょっとドキドキしてきたぞ。
看護師さんも皆、感じが良かったけれどもこれまた感じの良い先生がやって来て「舟橋さん、年齢が年齢だけに可能性は低いけど、ポリープとかあったらとっちゃっていいかな?」と念押しの確認をする。「お願いします!とっちゃって下さい!」と答えた後に(気合い入れ過ぎたかな)と自分の様子に不安になる。
そんな僕のドキドキはどこ吹く風、「じゃあ麻酔入れていきますからねー」と右腕に繋がれた点滴が途中から差し替えられていく。
事前に「麻酔を入れられると一瞬で意識を失う」と聞いていたから出来るだけ争ってやるぞ!と心に決めていたので(よし、絶対にギリギリまで我慢するぞ!)と思ったのが最後の記憶。「はい終わりましたよー」と起こされて気がつけば僕の人生初の大腸内視鏡検査は終わっていたのであった。

隣室に車椅子で案内され、実際の映像を見てみる。「綺麗なもんですよ舟橋さん、良かったね!」とマスク越しでもわかる先生の笑顔にホッとする。まだ麻酔が残っているのか頭がぼーっとするが、これは嬉しい。
「これは、コーンかな?」
見ると画面内に黄色の固形物が写っていた。コーンなんて食べてないぞ、あ、いや待てよ。朦朧とした脳味噌で前夜、娘が残したコーンを何の気無しに口にした瞬間を思い返した。
「コーン、ですね」
「あはは、コーンだね」
この瞬間は恥ずかしかった。
それにしても妙にお腹が痛い。身体を真っ直ぐに出来ない程だ。手術後はたまにあるらしい。帰宅後におならが沢山出たのでひょっとしたら体の中に空気が入ってそれでお腹が痛かったのかもしれない。

部屋に戻り、着替えをし、実家の父に迎えの依頼の電話をする。痛いお腹を守るように体をくの字にしてウトウトする。
気がつけば一時間ほど眠ってしまっていたようでナースコールで目が覚める。
どうやら父が迎えに来てくれたようだ。
まだ麻酔が残っているのかフワフワする。
フワフワしたまま、保証金からの返金部分を受け取りエレベーターに乗り、受付でお礼を言い父の車に乗り込んだ。母も迎えに来てくれておりひとまず検査の結果全く異常はなかった事、兎に角腹が痛い事、そして麻酔がまだ効いている事を伝えた。

家に帰ると妻と娘が迎えてくれた。
娘が食べていた唐揚げの残りを口に入れたものの、朝から何も食べていない割には空腹感がない。検査が終わったら焼肉だ!と盛り上がっていたのに残念無念。
腹が痛かったのでベッドで横になると程なくして眠ってしまったらしい。妻に起こされると夜の11時。どうやら6時間近く眠ってしまっていたらしい。気遣ってくれた妻に感謝。

翌日からはフルスルットルで元気になりました。いやはや、実際年齢が年齢だけに検査しておく事の大切さ、安心感は痛感した。
来年は会社の支援を受けての人間ドッグに挑戦する予定です。

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