実に久しぶりの演奏活動だった。
新型コロナウイルスの感染者数が全国規模でも落ち着いてきた、という雰囲気が報道や生活の中でも感じられるようになり、しかしそれでも第六波への懸念を心の中に残しながら少しずつ生活の中での「潤い」を取り戻していこうという最中の事である。
この日鶴舞K.Dハポンで鈴木実貴子ズのアルバム『泥の滑走路』購入特典ライブが行われた。アルバム購入者の方向けの公演で、購入されたアルバム掲示で入場可能というものだ。
開催当日はバッキバキの平日、しかも日程的に有給取得が難しい日取りだったので出勤する事となった。
仕事から直接会場入りする事が確定していたので事前に楽器はメンバーにお預けしていた(この日スタッフを務めたなっちゃんが運搬してくれた)。
開場後にセッティングをしてお客さんが本番を待つ中で簡単な音出しをしての演奏開始という流れを見据えてペダルボードは小型化、微調整も簡単に済む程度にしておいたのだがそれが功を奏した。
職場で制服から通勤のスーツに着替えながら配車センターにタクシーをお願いして、会場入り後に今度はステージ衣装(というと聞こえは良いが僕の場合はお気に入りのシャツにズボン程度の衣装である)に着替え、セッティング。
音作りも然程迷う事なく、エフェクターのツマミの微調整に時間を割く事もなかった。
足元の機材の話。
鈴木実貴子ズでの歪みは軽く歪んでいるものと強く歪んでいるものの2種類必要(本当はこれに加えてタイトに音が切れるファズも必要)。この公演の少し前に手に入れていたEarthQuakerDevicesのGray Channelが1台で2台分の歪みサウンドを担ってくれるので、ボードのサイズをなるべく小さくしたい今回のようなシチュエーションでは大変に助かった。歪み軽めのグリーンチャンネルも強めのレッドチャンネルも、どちらもモードは「クリッピングダイオードなし」で、歪み具合と音量を調整して二段階の歪み具合を実現する事が出来た。
スイッチ一つでそれぞれを行き来出来るのもコントロールしやすく、なんなら簡易セットに限らず鈴木実貴子ズに於いては歪みはこれ一つで良いのでは?と思える程。
あとK.DハポンではHartkeのHS1200というコンボアンプが常設されているのだけど、これが大変良い音がした。
四日市のドレミファといろはでも同じものが採用されていて、これまた良い印象があったので久しぶりに触る事になった今回も躊躇なくインプットにシールドを突っ込む事が出来たのだけど、ちょいちょいっとチューニングして直ぐに好みの音が出たのでやっぱりこれは自分の好みに合っているんだな、と。
終演後、ハポンのモモジさん(お久しぶりです!)と「あれ良いアンプですよね」と話をしているとモモジさんも「ね!あれ良い音するんだよね」と。ハポンの環境にも合っているんだろうなあと思う。
そして痛感したのが人前で演奏する事が如何に自分にとって大切な時間なのか、という事だ。
練り上げてきたものを自分の肉体を以って人前で披露する。その少し前までは特に意識もせずに繰り返してきた行為こそが自分の人生にとって大切な起伏になっていたのだ、と実感した。してしまった。
練り上げてきたものを共に練り上げてきた人達と演奏し、それが同じ空間にいる人達の耳と視覚に届いて「ああ、何かを感じて貰っているな」と肌で感じる事(照れ臭いけれどもこれはそのまま『届いている実感』と言っても良いのだろう)、それこそが本当に自分にとって重要な自己実現の瞬間であったのだ。
車輪は、再び回り出してしまった。僕の車輪は簡単に回転を止める。家族、会社、その他色々、多くのものをその上に乗せているからだ。この回転はいつまで続くかわからない。だけども永久に止まる事、止める事は出来ないと感じた夜であった。