DEATH BY AUDIOのベースファズ BASS WARを購入、その覚書。

これは完全に個人的な意見だけれども、電気を使った弦楽器奏者にとって良いファズとの出会いは人生を左右する出会いの一つである。
大学時代に所属していたサークルで出会い、今も時折一緒に演奏する素晴らしいギタリスト氏がいるが、彼がCDライティング機能を有したMTR(完全に余談だがMTRはDAWの普及によってすっかり見かけなくなった機材の一つであるミキサーくらいのサイズに直接楽器をインプットして録音、重ね録りしてデモを作成していたと知ったら今時の演奏家は何と言うだろうか)にビッグマフを通したギターをインプットして、初めて弾いた瞬間の事を今も憶えている。感情を解き放った彼の演奏こそが、当時既に自分の演奏にファズペダルを用いてこそいたものの、アンサンブル中に於いてさして有効に運用出来ていなかったし、またどういう瞬間にオンにするか決めあぐねていた僕の指標の一つになったのであった。
感情を解き放って『お見舞いする』ツールの一つとしてファズペダルを用いるようになって15年近くが経つが、その時々によって僕の足元のファズは頻繁に入れ替わった。演奏する内容によって、だなんて器用な話が原因ではない。単純に音の好みがコロコロ変わっただけなのであった。
それでもその時々のフェイバリット・ファズはその後の演奏に於いても時々現場に持ち込まれ、導入当時よりも経験(だけ)を経た僕によってオンにされ「やっぱりこいつァ最高だね」だなんて僕も悦に入ったものである。

第二子の誕生を目前にし「まあこれでちょっとの間は買い納めだな」と思いながらディレイペダルを購入して毎日を過ごしていたある日、友人から『最悪のニュース』としてSNSのリンクが送られてきた。何の気なしに開いてみるとそれはDEATH BY AUDIOの輸入代理店の投稿で、どうやらDEATH BY AUDIOから新しくベースファズが発売されるとの事だった。
「!!」
DEATH BY AUDIOは同社を代表するファズ・ペダル FUZZ WARをはじめ、ペダル愛好家はもとよりファズ愛好家の中でも定評あるブランドである。生憎にしてこれまで良い出会いがなかったので同ブランドのブツは一つも持っていなかった(ノイズ・ループペダルを購入しようと真剣に検討した事はあった)が、FUZZ WARは手頃なブツがあれば是非手に入れたいと定期的に検索をして探していたところだった。
新しいベース・ファズはどうやらそのFUZZ WARのベース版のようだった。

NETFLIXの『地面師たち』を観てから、僕もご多分に漏れずピエール瀧氏が劇中で連呼する「もうええでしょう」を面白がって口癖のように使っていた。頭の中でピエール瀧氏の声がする。「もうええでしょう」。一体どっちだ。
(ファズは沢山買ったから)もうええでしょう、なのかそれとも(ファズはどうせ買ってしまうんだから)もうええでしょう、なのか。
抗えない、と思った。僕が先程の代理店の投稿を引用して「妻よ、すまない」と投稿したところ、妻はSNS上で『ファズなら仕方ない』と発信。そうだ、ファズなら仕方ない。
もう、ええでしょう。抗わなくたって、ええでしょう。


というわけで、秘境でのライブ今池でのライブの間に買ってきたぜ、DEATH BY AUDIO BASS WAR。
購入に於いては懇意にさせて頂いている楽器店店員S氏に無理を言った。試奏しながら「FUZZ WARとの違いや如何に」と投げかけると「BASS WARのがちょっとシンセっぽいというか。FUZZ WARとは違う印象ですね」。そんな話を聞いたら結局いつかは買ってしまうじゃないかFUZZ WAR。ひとまず、音を出す前に筐体のデカさに満足。これは最早、信仰のようなものだけれどもファズは筐体がデカい方が良い音がする。どうせ使うならでけぇブツを足元に仕込んでここぞという時にオンにしたいものである。
BASS WARの筐体はその辺、受け止めてくれる大きさだ。省スペース化とは無縁の、けれども無暗に大きいというわけでもないサイズ感。期待出来る。

MIXやBLENDという表記の、まあ原音ミックス機能がついているペダルではまずそのコントロールを原音側に振り切ってオンとオフを繰り返す事にしている。原音ミックスと一言で言っても、完全に原音と遜色がない信号を混ぜる事が出来ないペダルも中には存在するからだ。よし、合格。完全に遜色ない。
どうせ音量はバカデカいだろうから最小から上げていく。何と時計の9時くらいでバイパス時と同じくらいの音量になった。これは音作りによって変わってくるだろうけれども、いずれにしてもBASS WARの音量は危険な程にデカい。
FUZZコントロールでBASS WARはその表情を変える。基本は確かにシンセっぽいブチブチバリバリという歪み方。しかしFUZZコントロールは何故かゲイン(だけ)を触っているというよりかはキャラクターをいじっているような感覚に近い。いや勿論FUZZコントロールを右に回していくにつれて歪みに混ざるノイズ成分が大きくなってくるし音も張り出してくるのでゲインが上がっているのは間違いないのだろうけれども、それでもここまで印象が変わるのかという実感である。
TONEコントロールは説明書によると「98Hzから3.3kHzをスウィープするディープ・ノッチフィルター」との事。ノッチフィルター=特定の周波数を減衰させる一方、その他の周波数はそのまま出力するという事。成程、右に回しきるとローエンドがいなくなる。このTONEコントロールとMIXを組み合わせる事で出音の凶暴さの割に音作りの幅、というかイメージした音作りに辿り着く事は容易となっている。

MIXコントロールつければそりゃあどんな音作ったってベースらしさは担保出来るし音作りもしやすかろうよ、と思われる向きもいらっしゃるかもしれないがさにあらず。その出音の協力さ故、MIXで原音混ぜてもちゃんとアンサンブル中で「あ、ファズかかってるな」が感じられるのは流石DEATH BY AUDIO。FUZZコントロールを上げていった時に増えてくる混沌としたノイズ成分も格好良い。

購入、家で少し音出ししてみて「こりゃあイケるな」と思ったのですぐさま今池まつりでの演奏で使ってみた。
前日にブレンダー(原音の音量とエフェクトの音量を個別に設定、混ぜて出力するミキサー方式のもの)を使ってファズをかけた時は結局「ファズの低域」と「原音の低域」が混ざり合って低域ばかりが目立ってしまい、あまりファズを踏んでいる感がなかったのだが(これよく考えたら僕の音作りの仕方が原因だな)、今池まつりの現場では割と控えめに音作りをした割に「あ、ちゃんとファズ踏んでるわ」と弾きながら興奮出来たのでブレンドの方式と匙加減って本当に大切。
ちなみに今池まつりでは『音作りの時に「これくらいで良いかな」という歪み具合よりも気持ち抑えてみる事がアンサンブル中でファズベースを活かすポイント』と思い、その通りにしてみた。
成功、という実感を得た。いや、もうちょっと攻めてみても良いのかな。
いずれにしても楽しいものだ。