『俺の温度、軸との距離』

サウナに対する愛情を込めた作品『俺の温度、軸との距離』を新栄トワイライトで上演した。

最近は演劇であるとか一人芝居であるとかそういった「演奏以外の活動」とは、一時期に比べるとちょっと距離があるというか、正確に言えば距離をとっていたというか。
特に理由もなく、振り返ってみるとどんどんと演奏が楽しくなっていた時期だったのだと思うのだけれども、そんな中CLUB ROCK’N’ROLLの本多さんから「1月の公演は君達で何かやってよ」と今や若い人達に運営を任せてすっかり引退を決め込んでいた僕達に声がかかり、本多さんからのリクエストだったらやる他あんめぇという事で久しぶりに演劇作品を作る事になったのであった。

どうせやるなら好きな事をテーマにして思いっきりやってみよう、という考えがあった。
久しぶりの作品製作だから肩肘張ってやってもしょうがあるまい、という思いもあった。幾つか作品のアイディア自体はあったと記憶しているけれども、作品として発展性がありそうなものを具現化する事となった。
すなわち、サウナである。
抽象的だし、やり甲斐のあるテーマである。サウナというテーマでいこうと決めた瞬間に、何をどのように表現するか、何となくという言い方の3倍くらいは明確に、決まった。
今回の、というかいつもそうか、僕は人ありきで作品を作るのでまずは何よりメンバー集めが重要だった。
それぞれが忙しいと思われたけれども意外や意外、すんなりと集まったメンバーと担当パートは以下の通り。

演奏:梶藤奨(26時数秒にも満たない)、僕
身体表現:炭酸(犬栓耳畜生)
ライトドロー:タキナオ

あと、録音の関係で金森君(白線の内側、MoNoSiRo)とかしやま君(白線の内側、あたらしいまち)に手伝って貰った。
こんな素敵なメンバーが集まった段階で正直、作品作りの半分はクリアしたと思ったのを憶えている。大袈裟じゃあないか、って?いや実際のところそれだけ明確なヴィジョンがあったしそれぞれ代わりがいない人達だったのである。
この才人3人を一つの作品で邂逅させたってだけで僕は褒められていいんじゃないか?と思い上がるくらい素晴らしい人達だった。個々がきっちりと個々の役割を認識してそれに真摯に向き合って下さって、『俺の温度、軸との距離』は良い意味で僕の手を離れたのであった。

サウナに対する思いやそこで得た多くの実感をテキストにしナレーションとして録音、スタートボタンを押せば終演までノンストップでサイズも進行もナレーションに任せてしまった上で我々は全員即興で表現に臨む。
テキストとテキストの間にたっぷりととった空白時間も即興で埋めたり、或いは空白を浮き彫りにしたり、その瞬間だけを考えて演奏出来たのは素晴らしい経験だった。
同時に僕はただの演奏者ではなく、その場で成っている、鳴っているものをどのように着地させるのかを考えつつも演奏していた。やっぱりそこはホラ、作り手だもんだから考えたくもなるってものである。考えては弾き、弾いては考えて、とても有意義で素敵な時間を過ごしたのであった。

今回構築したシステム、ディレイとリバーブによって一音弾いたら反射しながら1分間は音が伸びて広がっていく。
面白いもので弾いて音が広がって重なっていくのを感じると気持ち的には「じゃあ次は何を?」となるのだが、その頃には先程自分が弾いた音の事をもうすっかり、他人が弾いた音と同列に捉えているのであった。この実感って割と演奏する人間として根幹的な部分で有意義な経験というか、数秒前だろうが一瞬前だろうが、時間の進行とともに我々の演奏はどんどんと最新の演奏に更新されているのであって、やっぱり演奏は常に生産的な行為である、あるべきなのだと再認識。
数秒前の演奏なんてもう過去のものなんだし演奏は再現とは本質的に違うのだ、という事。
まあ、御託は置いておくとしてもドローンでありアンビエントなベースギター演奏はサウンドメイクも演奏自体も非常に面白い題材だった。これはちょっと今後も追及していきたいテーマである。音のレイヤーの奥に何か見出せる気がする、だなんて酷く陳腐でそれでいてロマンチックな言い草だけれども、今の自分はそういう心境だ。

2018_01_25_001
タキナオさんのライトドローはサウナという空間と時間を舞台上に立ち上げる上で、抽象的でありながらも具体的であったと思うし炭酸さんの身体表現は作品にポピュラリティを持たせる上で必要不可欠だった。梶藤君はサウナ友達として誘わないわけにはいかなかったし、今回の作品を作る上で彼が何をやろうが演奏で絶対参加して貰わなければならなかった。
結果的に三人が三人ともこちらの想定を軽く上回る表現をして下さり、作品は奥行と深みが増した。物作りをする上で最も嬉しい裏切りの一つがこれだ。他人が表現に介在する事で作品が自分の手を離れ自由に膨らみ、伸縮し、飛び回る瞬間。
これはもう、4人の作品である。
そして同時に、僕名義の現時点での紛れもない最高傑作だなと思った。

コメント