乙一『GOTH 夜の章』/『GOTH 僕の章』

続・我が逃走

確実に話題性からは遅れているが、乙一の『GOTH』を読了。

この人の作品は『夏と花火と私の死体』しか読んだ事がなかったが、『夏と花火と私の~』はその一人称の特異性から、恐らく一生涯忘れる事のない作品である。で、残酷性やら何やらで話題となっていた『GOTH』に何となく挑戦。

中学生の頃、学年は一人でいたであろう「「あいつはいつか、何かやる」といった風情の学生。

夜な夜なインターネットで猟奇殺人者の記録を調べたり、犯罪現場の写真を眺めて何かしらのカタルシスを感じ、ニュースで陰惨な事件が流れると声を大にして共感を訴えるわけでもないが、意識のどこかにそれがひっかかる。人間の陰惨な部分に心惹かれ、爽やかな夏の日差しや澄み切った湖のような光景とは無縁の青春を送っている、そんな学生。

何を隠そう僕も結構そのケがあったのだが(じゃなければ妙に連続殺人犯について詳しかったりしないし、学年5本の指に入る美少女と特異な契約を結んだりはしまい)、今思えばあれは中二病のようなものだ。

で、本作品は現在進行形でそうである人間の方が詠む可能性が高いが、実は『そうであった人間』が読んだ方が心地良い読後感を得られるであろう。というのも僕はこれを読んで在りし日の自分、或いはこうなりたかった自分を想起したので。まるで黒歴史版青春小説、といった趣だ。

作品全体に通じる一種の陰惨な清涼感は、昔夢見ていたそれだ。

おっと失礼。レビューをする際は粗筋に触れておくのが筋ってものである。

『GOTH 夜の章』

連続殺人犯の日記帳を拾った森野夜は、次の休日に未発見の死体を見物に行こうと「僕」を誘う…。人間の残酷な面を覗きたがる者〈GOTH〉を描き本格ミステリ大賞に輝いた乙一の出世作。「夜」を巡る短篇3作を収録。


『GOTH 僕の章』

世界に殺す者と殺される者がいるとしたら、自分は殺す側だと自覚する少年「僕」。もっとも孤独な存在だった彼は、森野夜に出会い、変化していく。彼は夜をどこに連れて行くのか? 「僕」に焦点をあてた3篇を収録。

元々はハードカバーで出版された『GOTH リストカット事件』という作品だったのが文庫化に際し二冊に分かれたようだ。

主人公は狂言回しの役割を担う「僕」でありヒロインが「森野」である。

「僕」は殺人者を捕まえようという目的もなければ犯罪を未然に防ごうという正義感もない。あるのは『殺人』と『死』そのものに対する興味だけで、この主人公のブレのなさが全編通して貫かれているのが良かった。

ヒロインたる「森野」は猟奇的な嗜好の持ち主らしい。「犯罪者が妖怪であり、森野はそれをひきつける巫女のようなもの」と作者があとがきで触れていたけれどもまさしくその通りで、彼女どんどん犯罪者をひきつける。時には自分が事件に巻き込まれている事にすら気付かずに物語が終焉を迎えるのだけども、それが彼女の無感動で排他的な性格とあいまって妙におかしい。

そして何よりこの作品はミステリーとしてしっかり成立している。全体に漂う感覚、登場人物のキャラクター性からして間違いなくライトノベルの要素を持ち合わせているのだけれども、それとミステリーとしてのバランス感覚が素晴らしい。

叙述トリックというのはひっかかった!と気付いた瞬間の快感度が何よりも重要であると考えるのだが、本作品はそれも十分。『夜の章』『僕の章』いずれも一冊読み通した際に「あっ」と言わせてくれる。

面白かったなあ。

そして何より、こういう『生臭さ』のない死体が出てくる世界観は大好きだ。

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