午前三時のモツ鍋。

深夜3時、突発的に鍋が食いたくなったのでかしやましげみつ宅にて会合、打ち合わせという名の鍋。
今回も「僕に任せておきなさい」と一言嘯いて、どんな鍋が食べたいかだなんて訊きもせずに内臓やら鶏団子やらキャベツやらをカゴに放り込んで深夜営業のスーパーのレジに持っていく。二人分なら随分とお買い得、これ以上はもう結構と言いたくなるような量のモツ鍋が1500円で出来上がった。
市販品のモツ鍋の元に生姜やらにんにくをぶち込めば画一的な味のそれからちょっとだけ手間がかかった錯覚に陥る事が出来る。

会合、と書いたのは嘘ではない。話した内容はそのほとんどが今後の話、お互いが自分の表現に向き合うビジョンだったり表現をする人間としての自己認識とそれが表現物に及ぼす作用やらなんやらである。僕みたいなタイプっていうのはとかくこういうのでアウトプットや結果は勿論、モチベーションも変わってくるからしてこういう会合っていうのはそれについてとことんまで話し合える相手さえいればどれだけやったって飽きはしない。相手が刺激的なら尚の事だ。

今まで音楽というものについて向き合った際に、僕のモチベーションの根幹にあるのは嫉妬であった。音楽的素養に恵まれた、感性の優れた人間が生み出す瑞々しい音楽とその作り手に僕は嫉妬をしていたし、それにどう立ち向かうかが課題となっていた。その人の感性が羨ましい、その人の感性が注ぎ込まれた音楽が羨ましい、と。
何度も何度も繰り返し、このブログにも書いてきたけれども「音楽に選ばれなかった」人間として僕は無価値な自分をどう皆に叩きつけるかそればかりを考えていたと言って良い。
しかしここ最近はその考えにも変化が生じてきている。
嫉妬を感じる感性の持ち主、と顔を思い浮かべてみれば何人か一瞬で思い浮かぶけれども、僕から見た彼ら「ナチュラルボーン・アーティスト」は決してナチュラルボーンではない。生まれつき彼らはその音楽を作り上げるべくして育ったのではないし、そのためにギターを、ベースを、そして言葉を操っているわけではない。
彼らは彼らの環境で育ち、感性を育み、そしてどう行き着くかは恐らくは無自覚なまま自分の感性を育て上げてきた。それに対して嫉妬する、嫉妬という感情だけで括るにはあまりにも傲慢な思考停止だ、と今は思う。
彼らがその音楽に至るまでの外的、内的な刺激を自分の感性の礎としている間、自分は自分で同じだけの間、何かを育んでいたはずだ。何か。考えれば、すぐに答えは出る。
生まれ育った環境の差異はこの場合問題ではない。幼い頃からピアノの英才教育を受けていたので今、卓越したピアノの演奏が出来る。それが羨ましいならば今からでもピアノの練習を始めるべきで、その気概を忘れずに30年も毎日ピアノ演奏に心血を注げば嫉妬の感情を抱いた相手の嫉妬の感情を抱いた時点での演奏技術、表現力には到達出来るはずだ。
評価、というのは瞬間瞬間に移ろっていく。あの人は、あのバンドは素晴らしい、という評価はその時点でのものだ。今現在の瞬間、同じだけのものを持ち得たいならばそれは難しいけれども、その嫉妬の根幹にあるのが表現欲求ならばそれは時間軸から解き放たれた目標へと昇華すれば良い。
死ぬまでにその表現を成し得れば、それ以上の表現を成し得れば何かをアウトプットする人間としてこんなに素晴らしい事はないだろう。自分の評価、というのは自分が一番よく理解しているのだろうから。自己評価って奴の場合は。

というわけで僕は音楽に恵まれていない「その他大勢の代表」としての活動を辞めた。というか辞めている。
僕はライブハウスを現場として専ら活動しているけれども、音楽的素養が第一の元手としていないだけで自分には人の心を動かす何かっていうのは十二分にある、と感覚的には理解していた。ロジックとして腑に落ちてしまった以上、ますます自覚的にならざるを得ない。
恐らく、この活動の指針に至るまでの思考というのはもっともっと伝わりやすい表現があるはずで、今日書き綴ったのは衝動的な物言いに他ならない。10年後の僕がこれを読み返しても、まざまざと今現在のこの思考をトレース出来るかどうか怪しい。
今後も何度も何度も書くと思う。今までと同じように。

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コメント

  1. こいけ より:

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    船橋さんの文はやはり良いですね。
    ここまで人間的な、その人なりが出る文章が書けるというのはそれだけで素敵です。
    あんまり文章を書くのが得意ではない僕ですが、何かしら始めてみようと思いました。ありがとうございます。

  2. 舟橋孝裕 より:

    SECRET: 0
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    >こいけさん
    ここも読んで頂けてるだなんて嬉しいです!
    記憶喪失になってもここを読めばかつての自分をトレース出来るような、そんなブログにしたいです。