廃墟探訪〈その3:最終回〉

一体、只でさえ不穏で不気味な空気が漂う廃墟に誰が夜中に忍び込むのだろうか。
かつては人が生活し、時間と想いを積み重ねていったその場所は今は淀んだ空気が満ち、草木によって侵食され、たまの闖入者によって残される痕跡以外は時が止まったままなのである。
あまつさえその場所に忍び込んだのは草木も眠る丑三つ時。
ご丁寧にその場所は有名な心霊スポットとして名を馳せているときたもんだ。

ここまでお膳立てが揃っていたら、例え小心者でなくとも内心ビクつくものだろう。適度な恐怖、安全圏の中での恐怖は興奮を伴い、意識を覚醒させ、日常に適度な非日常を与えてくれる。そこには好奇心と興奮と、そして冒険心のみが存在するのだろう。

我々一行はお互いの足元を照らしながら斜面を登り、そして古虎渓ハウスへと進入した。我々が足を踏み入れたのは一階部分、今は床下と見まごうばかりに荒れたそこは地面がむき出しになり、建物の骨組みも剥き出しとなっている。
「とにかく事故だけはないように」
もっと恐ろしい事など起こるはずがない、と決め付けて否、言い聞かせて我々は奥へと進む。嬌声と冗談、軽口を景気づけとし不気味な廃墟の中の探索を行う。

入って直進すると、そこが噂の浴槽。
女の幽霊が出るらしいと伝わるそこは、他の場所より原型を留めていた。浴場といっても差し支えない広さのそこにはかつては浴槽であったのだろう空間が2,3用意されており、そして足元に光を向けるとタイルは比較的綺麗なままそこが紛れもなく浴槽である事を主張していた。

二階部分への好奇心が僕の心を突き動かす。
しかし、他の部分から見ても床が腐っているのは明らかだ。下手をすれば事故につながりかねず、ここでなお二階への探検を主張するのは勇気ではなくただの無謀である。

一階スペース、部屋数にして三部屋を回って我々は古虎渓ハウスの外へ出た。
「何もなかったな」
「でも十分に怖かった・・・」
そんな会話をしながら帰路に着く。反省会を済ませて帰宅した頃にはすっかり夜も明けており、僕はベッドに倒れこむように眠りについたのであった。

起床し、アルバイトへ。
アツシ・ハセガワからの一通のメール。画像が二点添付されている。
問題の画像と、平常時の比較画像。
RIMG0333RMOV0335

・・・。
ほとほと、帰路の途中で荒塩で体を清めて良かったと痛感した次第である。

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