練習スタジオに於いてイヤホンというのは結構便利である。

「俺とフナハシさん、リズムの“縦”があってないんですよ」

「あー、リズム感ないってよく言われるわ」

「でも出来ないわけないんですよ、だって不完全~とパイプカット~は“縦”あってるんですよ」

「あ、そうなんだ?」

「そうです。JONNYだと例えば皆が一小節を16でとってる時にフナハシさんは15か17でとってます。他の皆が“縦”あってるのにフナハシさんだけあってないとかありますw」

「ベースだけずれてるのかーw」

「そうですねw でも出来てる実例(不完全~/パイプカット~)があるので出来ないわけではないんですよ。じゃあ何故出来ないかを今度のスタジオで探ってみましょう」

「恐縮です、助かります」

「いえいえ。例えばあれですよ、耳栓とかすると如何に“縦”があってないかよくわかりますよ」

「耳栓?」

「イヤホンでもいいんですけど、耳栓するとアタックだけ聴こえるんですよ。特にドラム」

「あーそういえば前篠田君も耳栓してたね。じゃあスタジオで色々教えて下さい。リズムとか、本当に無知。むしろ今まで興味なかったところなんで」

「了解です」

「何か練習とか準備してった方が良い事はありますか?一人でも練習出来る事があったならしたいんだけども」

「いや、特に何もしなくていいです。いつも通りの機材でいつも通りの感じでスタジオに来て下さい」

「フラッとw」

「そう、フラッと」

そんな会話をしたのが21日早朝、大丸ラーメン前にて。企画 打ち上げの直後の事だ。

僕って元々ライブに於いてはあまり演奏の精度に頓着しない方で、アドレナリンが一杯出て興奮してライブを終える事が出来ればそれで良し、「今日は良い演奏をした!」と自分達の演奏についてはあまり省みない事がほとんどだった(あとで記録映像を観てギョッとする事がある)。それに対してJONNYの演奏陣(現行のサポートメンバー含む)は結構演奏の精度、充足感についても言及する程で演奏に身が入らないと「もうあんな演奏するくらいなら死んだ方が良い・・・!」とまで思いつめたりする人達。

なのでライブ後に「いやあ、今日はやったねえ」「かねえ」みたいな話をしている時にも微妙に会話が噛み合わなかったりしていた。そりゃそうだ、アドレナリンで全てを計る人間(それって別に自慰的な発想でやっているわけではなくて、良い演奏をしていないと興奮出来ないから逆説的に興奮していればバンドの演奏は良かったと無意識に判断しているんだと考える)と演奏の探求者ではライブ直後の雑感にも齟齬が生じ得るだろう。

自分の「気迫と熱量重視」の発想は間違っているとは決して思わない。少なくとも僕は今後もそのスタンスを崩す事はないだろうし、何であればそれがやりたくてバンドをやっている。けれども、一緒に演奏する人間が演奏の精度を追求したいというならば、それはそうするべきなのだ。興奮出来る演奏の実現度に差があり、僕だけがそれが低いなれば水準を引き上げねばならない。

僕だって演奏は高精度の方が良いと思うし。しかも一緒に演奏している演奏者達も興奮と狂騒が織り成すヴァイヴスの力は知っている人間ばかりだ。では彼らと僕が同じ達成感を共有出来ないかといえば、それはもう単純に僕が彼らを足止めしているのである。演奏にどこか違和感を感じさせて、彼らを興ざめさせているのではないだろうか。

だとしたら僕は即刻真面目にリズム感、演奏技術の向上に努めるべきだ。

「何も準備しなくて良い。ただスタジオに来い」

言われた通り、特に準備らしい準備もせずにスタジオにフラリと向かった。

機材を準備して、そういえばとふと思い出してイヤホンを耳につけてみる。

「・・・・!?」

なんだ、これは。凄くドラムがはっきり聴こえる。イヤホンを外す。いつも通り。イヤホンをつける。

ドラムの“点”がハッキリクッキリと聴こえる。自分の音の聴こえ方、ギターの音の距離感は変わったけれども、これは実にやりやすいんじゃないのだろうか。耳にも優しそうだしね。

さて、演奏面に於いて。

今までの感覚で弾くと確かにドラムと“縦”がずれてるかもなと思う。普段の俺ならばここで走ってたのか、とかここが曖昧だったのか、なんてのがドラムの“点”が明確になる事で実によくわかった。

で、ドラマをちゃんと聴いて演奏すればそれなりにはあわせれるかもな、というのが第一印象。壊滅的にそこが出来ない、もう素人以下、生まれながらにリズム感が欠如しているわけではないのだろうな、と思った。

でもまあそれってつまり今まで僕が如何にドラムを聴いていなかったのかを証明するわけなんだけども。

普段からドラムがどんなビートを刻んでいるか、特に注目もせずに「あーこの曲はこれくらいのテンポなんだなあ」とか或いは「一小節はここからここまで」くらいの感覚でドラムを『聴く』わけではなく『感じて』いるレベルだったので、ここでスネアが入っているのですねとかここでキックが鳴っているのですねとか、そういう一小節を点の集合として捉える事が出来ると如何にあわせやすいかを体感する事が出来た。そして演奏していて楽しい。

今までベースを7年くらいやっているけれど、本当に僕って奴はドラムを聴いていなかったのだ。

で、その練習の翌日がパッセフェス だったのだけれども、ライブの際にはどうすべきか。まさか耳栓をしてやるわけにもいかず、かといって興奮するライブ中にドラムの音をジックリと聴く余裕があるかと言われれば自信はない(頭とかふっちゃうと音の聴こえ方が変わったりする故。そして演奏の精度をあげるために興奮を押し殺すのは、今現在ではあまり興味が湧かない事である)。

それが出来るようにするための『リズム感を揃える練習』なのだろうけれども、“縦”をあわせる事に興味を持ったのは前夜。あーどうすっかね。折角なので興奮状態でドラムにあわせにいってどの程度“縦”をあわせれるか興味があるのだが。

取り急ぎ目の前のモニターからスネア、キック、ハイハットの3点をうっすら返して貰う。目の前からドンドンスタスタとキックとかスネアが鳴ってたら如何に僕が興奮していようともそれは無視出来ないだろう。いわばドラマーから僕への牽制、拘束具としてキックを至近距離で鳴るようにしたのだが、これがなかなか良かった。

目の前のスピーカーからドラムが結構な音量で鳴っていると演奏しやすい。興奮して演奏していても目の前でクッキリハッキリ鳴ってれば無意識の間にあわせにいける気がする。

自分の精神論、信念を捻じ曲げる事なく、周りの演奏者と“縦”をあわせにいくビジョンが見えた気がした。

「今日どうだった?」

「昨日の練習でやった通りの感じでしたね。前よりかは“縦”あってましたよ」

「やった!ひょおおおおお!これからも頑張って練習しますよおおおおお!」

「でもあれですね、“縦”あってきたものの、今度は勢いなくなった気がしませんか」

「・・・・・」

どうやら鉄壁のリズム隊、パンチのあるリズム隊への道のりはまだまだ険しそうである。

コメント

  1. Spring Perfume より:

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    …ってナンデスカヽ(゜▽、゜)ノ
    私もドラム聴いてるつもりで聴けてないんだろうな。
    「こっちを意識するとあっちがおろそかに」っていうのは悩みの種だよね。
    私は「音」と「言葉」で揺れてます。
    道のりは遠い。

  2. 名前 より:

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    基礎練習では縦を意識するのはアリでしょうけど。ライブにおける音楽表現としては縦なんてどうてもいいことです。(実際にはもちろんレベルによりますけど)
    縦を意識するのなら、ベースはドラムの脚(膝)をいつも見ていないとダメです。基本的にアマチュアの出音は予測できませんから。
    アマの場合、ドラムを見ながら(客に背を向けて)弾いているベースのバンドはわりと安心してみてられます。

  3. 舟橋孝裕 より:

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    >名前さん
    そう、まさしく僕はその“レベルによる”レベルだったのです。
    更にはメンバーに対する信頼関係の一顕在化した形として、彼らの誠実な演奏に対する返答としてこちらも『丁寧さを第一に於いたわけではない』中で最大限に誠実な演奏をするべきだと考えて只今現在演奏しております。

    そして一緒に演奏するならば、例え世間的にいうところのアマチュアだとしても、ドラマーを確固たる演奏者として信頼してこちらも演奏するのが僕なりの信頼関係である、と感じます。

    ドラムを見ながらの演奏、良いですね!
    リズム隊だけで世界に入り込んでいるような演奏をしているバンドは観ていてこちらも清清しいです。
    ただライブにおける音楽表現では、兎角僕の場合では興奮に駆られるとなかなかそうもいかないのが実情であります。

  4. 舟橋孝裕 より:

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    PASS:
    >Spring Perfumeさん
    リズムの縦ですね。
    僕って多分キックとかスネアとかとあってなかったんだよね、ベースが。
    勿論音楽に於いて正確さって一要素でしかないし演奏技術の精緻さがそのまま素敵な音楽に直結するわけではないけれども、僕の場合は多分あまりにもあんまりだったんだよねw
    何よりガツッとあうと興奮します。

    ヴォーカリストと違った筋肉使ってるんだろうなあ、僕。お互いに悩みは尽きないだろうけれども、頑張ろう!