「ああ、これは良い、良い闘争だった」その1

人生初のワンマンライブについて、文章にしてしまう事に抵抗がないと言えば嘘になる。

どれだけ言葉を綴ろうとあの夜そのものを再現する事は出来ないし、あの複雑な感情が1mgの誤差もなく寸分違わずに伝わるかどうか。だが、記録しておかねば後悔するのもわかっている。

端的に言ってしまえば、27歳のベーシストとしての挑戦、恐らくは最初で最後の挑戦は大成功だった。

ご来場頂いたお客様は皆楽しそうだったし、終演後のフロアで見られた沢山の笑顔、「お疲れ!」と肩を叩いてくれた友人達の力強さ、笑顔で頭を下げて帰っていかれるお客様のあの目、そして出演者の皆の労うような笑顔(その反面、打ち上げでは物凄い一気を披露)、そして僕自身の達成感から、心の底からそう思える。これは誰が何と言おうが疑うつもりさえ、ない。

イベントとしても最後まで軸がブレる事なく貫徹出来たと思うし、20歳前後から続けてきたバンド活動、現在までのバンド活動の集大成をお見せ出来たと思うとこんなに嬉しい事はない。

今回は完全に「エレクトリック・ベースギターリスト」として勝負に出た。僕という人間はなかなか浮気性な上にやりたがりだから、ついついラーメンを作ったり朗読でライブを行ったりネット配信を行ったり、とバンドの中でベースを弾く事以外にも面白みを見出してしまう。それら全てを一括して「バンド活動」だと思っているのだけれども、今回は最も長く続いている、そして最も多くの人と関わってきた「ベースギター」を武器に勝負したいと最初から決めていた。

4部構成の後半戦にいくにつれポジティブな意味で何度もベースギターを投げ出して客席に飛び込んでしまいたい衝動に駆られたけれども、周りの物理的な状況、そして何より「今日は最後まで演奏しきる」という決心がそうはさせなかった。それで良かったと思うし、そこを放棄していたらどれだけ多くの人が「楽しかった」と言ってくれようが僕は心の底から頭を下げる事が出来なかっただろう。

自己実現、ではないけれども、自分自身の節目として今回のワンマンライブを挙行した側面も少なからずあるので、そういうエゴの部分も達成出来て本当に良かったと思っている。

27歳にして、鍵盤のどこを押すと「ド」の音がなるのかわからないし、未だに好き勝手にベースを弾くと不協和音をガンガン鳴らす。そして曲は作れないし、おまけに歌も具合が良くない。

それでも僕は絶対に、許せなかった。それで諦める自分も許せなかったし、「音楽が才能に満ち溢れた人間による芸術」である事を、そんな音楽ばかりが人を感動させる事を認める事が出来なかった。僕の周りのナチュラルボーン・アーティスト、恐らくは無自覚で呼吸をするように僕らが「ハッ」とするような事を考え、口にし、それらの思いをありったけのせて音楽をやる人間達。

有難い事に僕はそんな素敵なバンドマン、音楽家達に沢山会ってきた。それらは僕のバンドメンバーであり、レーベルメイトであり、共演者であり、そして友人であったりする。彼らの演奏を観、音楽を聴き、胸にグッときて感動する。こんな素敵な音楽が、言葉があるのかと心打ち震える。けれども同時に、腹の底でモヤモヤした感情がしっかりと存在するのも痛感する。もうそれって確実に「嫉妬」だったりするわけなんだけれども、僕はずっとその「嫉妬」を自覚しながら自分自身を報わせるために、そしてそこに面白味を感じていたからこそ、手前勝手な代理戦争を始めていた。

「音楽の才能に選ばれた人間」VS「選ばれなかった凡庸な僕」というわけだ。

勿論この代理戦争が掲げる理念は大いに突っ込み所が多いのも自覚している。ある人からすれば僕の思う「才能溢れる人間」は僕がしなかった努力の結果、今の素敵な音楽を鳴らす体になったのかもしれないし、別の角度から見れば僕に対して嫉妬の感情を感じる人間だっているはずなのだ。でもさ、自分の自意識って死ぬまで自分は付き合っていかなければならないわけで、主観だろうが客観だろうがそれさえも全部飲み下して、僕は挑むべき相手が多かったというわけ。

僕のようなバンドマンは、身近に才能溢れる面白いバンドマンがいなくなればすぐに活動の場を失う。どこを探しても一緒にやりたいと思う音楽家がいなくなったら、多分その時はベースを置く時だろう。それだけ僕は脆弱な存在なのだ。

けれども僕は同時に知っている。僕のような存在もライブハウスには、否、芸術には必要で、バンドという集団に僕が只今現在3つ所属しており、そしてお手伝いさせて頂く場も少なくないっていうのはそういう事なのだと思う。表現者の受け手として音楽に携わるのは、決して害悪ではない。

演奏者、バンドマンとして己を高めていけば、きっといつか自分自身が「作品」になれる日が来るのではないか。人が書き、歌う曲に対する羨望の眼差しを愛情に変えて、自分自身のスタンスを「作品」として誇れる日が来るのではないだろうか。そう思っていた。凡庸な癖に自意識が強いと、苦労するって話なだけなんだけどね。

で、僕は今回のワンマンライブはある種の指標の一つになるだろう、とも思っていた。僕という人間のスタンスが、どれだけ多くの人に認められるか、受け入れられるか、楽しんで貰えるか。自分の内から発生する音楽性のない人間が、恋い焦がれる音楽を作る人間達と演奏する事で自分を発散して、それが多くの人に感動を与えるならば、多くの人がそれを楽しむならば、きっと凡庸な人間でも音楽はやれるし、凡庸な人間でも楽しみながら音楽に携われるし、ひょっとしたら、人を感動させる事が出来る。

僕は自分が長年続けてきた代理戦争、そして自分の信念のために今回のワンマンライブ、やりきらなければならなかった。

数字が全てではないのは大前提だ。しかし数字が何かを表しているのもまた事実。当日は総合計121名の皆様にご来場頂きました。勿論皆が皆、僕を観に来たわけではないのは理解している。僕が参加する4バンドのどれかを観たくて来た方も相当数いらっしゃるでしょう。でも、そのバンドは僕が携わるバンドだし、それ以前にそれだけの人数の方があの場にいらしたというのはそれだけで僕は胸が一杯になりました。

そしてあの日、ステージの上から見た光景、あの途方もない光景っていうのは僕は一生誇っていいと思っている。多くの人間が拳を振りかざし、声をあげ、モッシュし、人の波の上をダイヴしていく。まさかね、ダイヴまで起きるとは思っていなかったのであれは本当にびっくりした。勿論それだけ格好良い音楽をやっている自覚はあったけれども、いや、それでもまさかまさか。人の波がグワングワンと動く様っていうのはステージ上から見ていると本当にグッとクる。

おっと、ついつい熱くなってしなった。

当日の思い出、各バンドへの思いetc.はまた改めて次のエントリーで書こうと思う。

内容が重複する可能性は大いにあるけれど笑

今しばらく余韻に浸らせて下さいね。

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