仕事第一の男テッドがある夜遅く帰宅すると、荷物をまとめた妻ジョアンナが彼を待ち受けていた。
「誰かの娘や妻ではない自自身を見つけたい」と言い残し、彼女は去って行った。
息子と二人残されたテッドは、失意のなか家事に奮闘。
数々の失敗やケンカを乗り越えて父と子の間に深い絆が生まれた頃、息子の養育権を主張するジョアンナがテッドの許を訪れた。
・冒頭で唐突に家を出ていく奥さん(演:メリル・ストリープ)の理由がいまいちわからないというか希薄なような気がして、なんだかなぁと思ってしまうのだけれども、その印象がひっくり返っていく実感があった。図らずもそんな奥さんの気持ちがわかるのが物々しい親権争いの法廷のシーンだというのが思わず唸った。巧みだなあ。
・ダスティン・ホフマンがいちいち格好良いしキュートだし、素敵過ぎる。
・父子の絆を描く作品、というのが第一印象だけれどもその実、きっちり夫婦間の信頼関係も描いているのが素晴らしいなと思う。裁判中でさえクレイマー夫妻が交わす視線が同じ時間を重ねた夫婦の慈しみを感じさせるもので、争っている内容が内容だけに観ているこちらは「もうやめちゃえよ裁判やめちゃえよ!」と複雑な気持ちになってしまう。そんな二人がそれぞれの弁護士から「手荒な真似」と形容される程の問答を仕掛けられて、それぞれが感情的になる。その結果浮き彫りになるのが二人とも息子を愛しているし二人とも悪い人間ではなかった、という点なのがギャップがあって良い。この映画、結局底意地の悪い人間なんて一人も出ていなかったっていうのが凄く好印象。
・母親の選択で幕を開け、母親の決断で幕を閉じる。そんな母親の愛情の姿を描いた映画でもあったと思う。ちょっと上の粗筋だと母親に対して軽薄な印象を抱きそうなんだけれども、実際のところそれだけの人じゃないよっていう描写もされていて。
・印象として「裁判」って「ドロゴロとした法廷闘争」みたいなのを連想するのだけれども、この夫婦に関しては裁判で争った結果お互いを認め合う事が出来たとまでは言わずとも、互いに踏み出すきっかけになったのかなという気がするのです。
・冒頭と終盤での父この18ヶ月間での変化を端的に、印象的に描くフレンチトーストのシーン。寂しそうな子供、そしてそれを受けつつ優しく、しかし寂しそうなダスティン・ホフマンが物凄く良い。
・メイキングドキュメンタリーがまた面白かった。実際に最初で最後の離婚調停中だったダスティン・ホフマンの起用。そんなダスティン・ホフマンも撮影直前に恋人を失ったメリル・ストリープに情感に訴える会話を仕掛けた事で彼女の繊細な表情を引き出したり。
・というかメイキングを観てダスティン・ホフマン凄いってなった。アドリブの応酬、演技以上の部分での情感を引き出す作業。
・それを許したり対応した監督も凄い。粗筋としては説明しづらい人間の心の機微がこの映画に感じられるのはダスティン・ホフマンや役者の演技以前、というか演技に向かう前段階での姿勢が大きく貢献しているんだな、とドキュメンタリーを観て思った。
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