時には陰惨な映画を好き好んで観たくなる時がある。
そういう時っていうのは気分が絶不調の時か絶好調の時か、だ。あ、断定口調で書いたけどそうでもないかな、いつだって観るかもしれないな、僕ってそういうの好きだったりするから。
のっけから二転三転する論調で書き始めた今日のブログですが韓国映画『殺人の追憶』を観た直後、感動が生々しいうちに書こうと思います。
公開当時から「凄い映画だ」と話題になった(記憶がある)『殺人の追憶』、これってもう今から12年前の映画なんだね。
10人もの被害者を出した未解決事件「華城連続殺人事件」を元にしたフィクション。
実際に起きた未解決事件をフィクション化する時は製作側なりの回答を提示するタイプか(「フロム・ヘル」は研究者達の意見を参考にしながらこのパターンでしたね)史実に沿って「未解決」のままにするかしかないと思うのだけど、本作は史実に則って未解決のまま。
容疑者は何人か浮上するけれどもそのどれも作中でその容疑を否定されている。
というか実際のところはどうだったのかわからないけれども、この映画で描かれる韓国警察は杜撰というか無能というか何というか。
容疑者をボコるし(こんなに跳び蹴りが炸裂しまくる映画だとは思わなかった)、証拠はねつ造するし(そもそも初動捜査で現場保存も出来ないし本当にやる気あるのかいこの人達は!ってツッコミたくなる)、自白を強要してとっとと犯人をデッチ上げようとするし、まあ兎に角序盤から中盤にかけてはこの辺の「テキトー」さをソン・ガンホさん演じる小太りの中年刑事(この人怪獣映画でも出てたけど特に顔に特徴があるってわけじゃないけど凄く印象に残る人だ)を中心にコミカルに描く。
「課長!この事件はおかしな点があります!」→「強姦殺人にも関わらず現場に陰毛が一本も落ちていないのはおかしい」→「つまり犯人はつんつるてんか、無毛症の可能性があります!」→「坊さんが下をつんつるてんにしたら完全犯罪じゃないか」→「そういえば近くに寺があったな...」
もう演出的に爆笑を狙っているのか微妙にハズしたギャグなのかスレスレ感が凄い。腐乱死体を映した後にそのまま焼肉のシーンにバシッと切り替わったりするし。
だけどこの映画の何が凄いってそういうコミカルなテイストを入れつつ、終盤の拳に力が入る展開までスムーズに違和感なく惹きつけていくところ。
容疑者が出てくる→こいつは犯人じゃない、を二回くらい繰り返しつつ、少しずつ真犯人の存在に近づいているように感じさせるのが巧み。半笑いで観ていたら気が付けば拳に力入れて観ていました。
そして最後、最後のシーンですよ。
この余韻、凄い余韻。
真犯人は結局姿を現さないのだけど最後のシーンまで観た後に映画の事を思い出そうとすると不在故に(あ、でも一瞬姿映ったか)その存在感が凄い。
用水路とトンネル、とか色々と暗喩なのかなってシーンとか構図も沢山あったので時間を置いてもう一度観てみようと思います。
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