折角休みの申請を出していたのにそれをすっかり忘れて夜勤に出勤してしまった。人手不足の今の状態、当然ながら僕は嬉々として作業従事者に組み込まれた。一日分の日当は稼げたからまあいいか、と思う反面、そうとわかっていれば今日断念した様々な予定を堪能したのに、とも思う。
僕が夜勤、と呼んでいるのは閉店後のパチンコ店の清掃作業だ。
一日実労働が一時間半、1800円の日当をパチンコ店と契約して清掃を請け負っている会社から貰っている。既定の人数が一店舗あたり決められていて、それ未満の人数で作業を行う日は欠員分の日当を作業従事者で割る事になり、つまり人手不足の今は日当は1800円以上。うまくバランスはとれていると思う。
作業内容はパチンコ台やホール、エスカレーター等の店内のあらゆる場所の清掃。パチンコ台の清掃、と一言で言ってしまうと簡単だけれど、僕が清掃しに行っている店舗はこの近辺ではどうやら最も大型らしく、作業内容も一人あたりが受け持つパチンコ、スロット台の台数も他の店舗より多いそうだ。一人80台分、と言ってどれだけの人間に作業の程度が伝わるかはわからないけれども、いざ灰皿からガラスから綺麗に磨き上げようと思ったら実際のところ一時間半では終わりはしない。悠長に磨いている時間はないので汗だくになって作業するわけだ。
他のホール作業やエスカレーター清掃等も、内容の差こそあれど同じようなもの。
しかしそれでもやっぱり良い小遣い稼ぎだな、と思う。一時間半コツさえ掴めば体だけ動かしていれば良い仕事をして1800円を貰う、というのは仕事としては楽な部類なんじゃあないのか、というのが僕の認識。
勿論慣れたっていうのはあるのだろうけれども。
今から2年前、人生初のワンマンライブに向けて運用費に於いて金策が必要になったので苦肉の策として労働でお金を生み出して補填する事にし、この夜間清掃のアルバイトを始めた。一時間半で1800円、実際補填が無事に終わった後も結局今日に至るまで辞めずに続けてきたっていうのはその作業内容と賃金のバランスが僕の中では絶妙だったからに他ならない。実際、時間的にも都合が良かったしね。
ただ夜の10時半頃から労働に向けて動かねばならない、というのは時として様々な弊害を生んできたのも事実である。ライブ後に慌ただしく家に帰り、あるいはライブハウスに楽器を一旦置き去りにし、夜勤へと急いで向かった事もあるし友人の誘いを断った事も何度もある。バンドの練習にも30分遅刻して参加せざるを得なかったり、その都度最も影響の少ない折り合いの付け方をしてきたけれども、夜勤労働がなかったら僕はもっと色々と動き回っていたのではないだろうか。勿論、お金は大事。
深夜に向かっての清掃作業、そこに集まる人達も印象深い。
昼の仕事があった上での副業としてしている人が多いので、同僚とも話をしていたのだけれどもやはりワケアリの人が多い。旦那さんが抱えている借金返済の足しにと働く人妻に、交通事故で入院、リハビリ中に職を失い求職中でとりあえず食べていくために働きに出ている元整備士さん、景気の悪化に伴い昼の仕事だけでは食いつないでいけないので働きに来られているサラリーマン、そしてアルバイト労働だけではままならない生活をどうにかしようとしているバンドマン、つまり僕だ。お気づきだろう、僕はお気楽な方だったのだ。
お金が必要、という動機は皆同じなれど、僕には切羽詰った事情がない。趣味も嗜好品も最低限楽しめるだけの余裕は、どれだけ財布が寂しい状態でもどうにかあった。
それに気付いたからといって、どう思ったって事もなかったのだが。
同僚達の中には人格面で尊敬出来る人も出来ない人も同じくらいいた。
作業中に拾ったパチンコ玉を他店で換金しようとして捕まった夫婦もいたし、どれだけ慌ただしい状態でも丁寧な作業を迅速に行う職人のような人もいた。僕のボス、作業リーダーは態度さえぶっきらぼうなところもあったかもしれないが、それでもコミュニケーションを重んじて作業を効率良くまわす凄腕である。
かと思えば大の大人が何も言わずにある日突然作業に来なくなる、なんて事もあった。
大人になったら皆まともだ、と今よりもっと若い頃は思っていたけれど、そうでもないのかもしれないと知れたのは良い機会だったかもしれない。
そんな夜間清掃作業、2年間にわたる約480回の夜勤も残すところあと二夜で終了だ。
昼の仕事との兼ね合いで辞めざるを得なくなった。経済的には勿論影響はあるだろうけれども、今後の事を考えると絶対に必要なステップである。迷う事はなかったし、同僚も気持ち良く送り出してくれそうだ。
そうそう、面白い事に昼の職場と夜間清掃作業の現場は、道路を挟んですぐ向かい側にある。
僕の生活圏って、バンド活動がなかったら結構狭いんじゃあないかしらん。
コメント