大丸ナイトと明け方5時の今池を全力疾走する僕。

夜の街、今池。
様々な人間の欲望と熱情が交錯する今池シティですが、深夜にしか営業していない大丸というラーメン屋がある。 ここに赴くと様々な事件(偶然バンドメンバーと遭遇したり喧嘩の仲裁をするはめになったり)に出くわすのだが、今宵も今宵とて得難い経験をする事と相成った。

後輩家田君と伊藤誠人と篠田家をあとにし、大丸へ向かった我々。店内に入ると得体の知れないオーラを発散する人物に気がついた。その人物は日にやけた顔、ボサボサになった白髪、薄汚れたジャンバーを着、手にはゴム手袋をつけてラーメンを食べている。隣の席が空いていたので家田君と並んで着席。

その老人はせわしなく前後運動しながら反対側の隣席に座った男性にひっきりなしに話し掛けている。時折辺りをキョrキョロわけもなく見回すのだが、それにしても動きが大きい。そんな風にして隣席の男性に話しかけている。

大丸ラーメン、訪れた事のある読者諸兄ならばおわかり頂けると思うが店内はある種の緊張感が漂い、談笑する雰囲気ではない。しかしその老人、常に何か呟いているのだ。隣席の男性の、老人を半ば無視し鬱陶しそうに応対する反応から察するに2人は知人ではない様子。
となると、これは…。

現状を把握したその刹那、あしらうような男性の反応に満足いかなかったのか(それでもそれすらおくびにも出さず喋り続けていたが)老人の好奇心の対象が僕に向いた。言葉が不明瞭で、咄嗟の事に応対できない。
老人はそのまま前後運動とラーメンの咀嚼に戻り、僕は家田君に意識を向けた。
家田君との小声の一言二言に対する老人の反応の早さは、例えて言うならば運動選手のそれであろう。彼は「関西」という単語を耳にするやいなや向かう先のない会話の矛先を僕に戻したのである。

老人「おおさか?おおさかいったんか」
僕 「ええ、行きましたよ」
老人「梅田は?う梅田」
僕 「あー、行きましたね」
老人「ふ風俗がよ、ピンクの看板(以下略)」

僕にラーメンが供されてもなお、老人の勢いは止まない。大橋大将は慣れっこなのかあまりにも挙動不審な老人に対して無視を決め込んでいるし、他のお客さんも静観の様子。相対するは、僕しかいない。
今池生まれ今池育ち。日常的に取り乱した人間、日陰者の多い街アンダーグラウンドシティ今池を愛する人間として、そして何より一表現者としてこれは挑戦だと感じた。

以下、老人と僕の攻防を一部抜粋してお届けしよう。

僕 (ラーメンうめえwwww)
老人「ロックはぁ死んだ!」
僕 「!?…唐突だね」
老人「ロック好きか」
僕 「好きですよ」
老人「BUCK-TICKな、あれはいい」
一同「ブッ!」
僕 「ば、BUCK-TICKっすか?ハイカラだねまた」
家田「ハイカラって」
老人「あとあれだ、BOØWYはいいな。いいでよ」
僕 「また意外な」
以下略

老人「大阪、次いつ行くんだよぉ」
僕 「あー、来月かな」
老人「大阪であいつに会ったら教えてくれよ、アイちゃんとピ、ピンクちゃん!」
僕 「あー、アイちゃんとピンクちゃんね。わかりました。言えばいいのね」(誰だ)
老人「おお、あいつらよう」
僕 「麺のびるんで早く食べた方がいいすよ」
老人「麺が」
僕 (大橋店長の口真似で)『早く店閉めたいです。五時までしかやれんもんで。早く食べて下さい』

老人「俺はあれだ変形ギター持っとる」
僕 「変形ギター」
老人「おお!もう飾りだけどよお」
僕 「こんなん持ってるわけだね」
老人「おお、持っとる!」
僕 「持っとる!!」
老人「持っとる!!!」
家田(もう嫌だこの人達)

若干の混乱にラーメンをじっくり味わうというわけにもいかなかったが、とにかく早く食べて貰ってお店のお客さんを回転させないと、と店員みたいな発想を抱いていた。常連の驕りもそこには勿論あったろうが、何より大丸はそういう愛情を抱かせる店なのである。

僕の丼の中身が残り僅かになった頃、お客さんが。本当に客足の耐えない店だ。

しかして、もう肉がなくてラーメンを作れないと大橋大将が断っている。丁寧だが、屹然とした職人の口調だ。僕はこういう大橋大将のエキセントリックながらも料理人としての誇りが垣間見える瞬間が大好きだ。

ふと見るとお客さんはiGO野田先輩ご一行!何たる偶然。

丼の中を眺めながら思いを馳せる。確かに今日は若干肉が少なかったかもしれないな、と。

そして僕は思い出した。入店時に大橋大将が「肉がないから後で買ってきて欲しい」と言っていた事を。肉は、元より少なかったのだ。肉が無に帰する時、ついにその時が来てしまったのである。
丼をカウンターにあげながら自分の意思を告げる。大橋大将が千円札を4枚渡してくれる。大丸に通い出して相応に時間が経つが、ついにこの時が来た。
『おつかい』の栄誉に預かる人間は数少ない。

走れ!

近場の99円ショップに駆け込み、大丸ラーメンの肉を買いに来た事を店員に告げる。中国語で会話を交わした店員氏達が、30パック分の豚バラ肉を用意してくれた。ビニールに手際良く詰め込まれる豚バラ肉。
恐らくこの店始まって以来、大橋大将は夜の住人達に振舞うため、ラーメン用の肉をここで毎日のように購入していたのだろう。今池ユニー、ダイエー、そして99円ショップ(時折は千種のイオンにも足を伸ばすそうだ)の総力を結集して作り上げられた今池フード。大丸ラーメン。

感慨深いが、今は兎に角

走れ!

大丸に戻ると野田先輩達と来られていたおざき姉さんが一言。
「それ、明日の肉みたいだよ」

…何と!
今日の画像は報酬として頂いた飴一袋。
でもね大橋さん。僕は大橋さんからの「有難うねすまないね」の言葉だけで十分報われました。
また元気にラーメン作って下さい。

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