夜中の珍事。

それはスタジオからの帰路で起こった。私はギタリスト各務鉄平が運転する車の中で疲れた体をドアに委ね、流れていく景色に目をやっていた。
車内には男性5人。練習直後は火照っていた体も外気によって冷え、心地良い倦怠感が体を支配していた。

助手席に座るボーカルギター山田康裕の後頭部に目をやる。彼は私の隣に座るサポートキーボーディスト伊藤誠人と筋肉少女帯の話に興じていた。

その時である。私の後方から「ガッ」と鈍い音が響いた。積み荷が滑ったのだろう。トランクには各人の機材が積み込まれている。何分雑多な機材を放り込むように積んでいるのだ、何かの弾みで機材が動くのはままある事である。と、伊藤誠人を挟んで反対側に座っていたドラマー神田佑介があっと声をあげた。

「機材が落ちとる!」

ただならぬ様子、そして彼の発言内容に反射的に後ろを振り返った。満載の機材の向こう、雨に濡れた道路が見える。トランクのドアが空いているのだ。事態を察した各務鉄平がブレーキを踏み込む。後続車の様子は機材によってできた壁から伺う事が出来ない。

騒然とする車内。
神田佑介と私はドアを開け放ち、後続車に注意を払いながら道路へと降り立った。そのまま後方へと疾走する。

果たして、車から落下した機材はスネアと私のエフェクトボードであった。幸い後続車は私達の異変に気付き、機材を避けてくれている。スネアもエフェクトボードも本来の役割を果たし、中身をぶちまける事なく機材を守ってくれていた。

回収し歩道へ戻る。
慌ててエフェクトボードの中を確認するが目立った損傷は見受けられない。

脇へ寄せて待っていてくれた車へと戻った私達。それ以降の会話は名古屋の中心地 栄に投げ出された機材と、同じ事を繰り返さぬための予防策に終始したのであった。

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