滝本竜彦『NHKへようこそ』

続・我が逃走

一時期話題になり、僕の周囲でもよく耳にした滝本 竜彦著『NHKへようこそ!』を購入。
この作品、amazon等の書評を見ると概ね評判が良い。
同作者の『ネガティブハッピー・チェーンソーエッヂ』は読了したものの全く印象に残っていなかった。読み返そうと開いたものの、ページを繰りつつも文章が頭に入ってはくるのだが定着しない。というかどうにも実のないように感じてしまって恐らくこの『ネガティブ~』は僕と滅茶苦茶に相性が悪いのだろうなと思った。
同じ著者の作品故に、不安半分好奇心半分で言ってしまえば半信半疑ではあったが、読みたいものを読みたい時に買わねば好奇心は抑えられまいと結局手に取ったままレジへ。

で、半分くらいまで読んだのだが。
面白いのよ、これが。
『ネガティブ~』の時にあった印象の浅さが全くない。登場人物が活き活きとしている。適度にリアル、適度にカチアチュアライズされていて良い意味で「わかりやすい」。そもそもからして「NHK」を「日本ひきこもり協会」としてしまう所がもう・・・!!
参考までに「BOOKデータベース」から粗筋を。

俺は気づいてしまった。俺が大学を中退したのも、無職なのも、今話題のひきこもりなのも、すべて悪の組織NHKの仕業なのだということを!
…だからといって事態が変わるわけでもなく、ずるずるとひきこもる俺の前に現れた清楚な美少女、岬ちゃん。「あなたは私のプロジェクトに大抜擢されました」って、なにそれ?エロスとバイオレンスとドラッグに汚染された俺たちの未来を救うのは愛か勇気か、それとも友情か?
驚愕のノンストップひきこもりアクション小説ここに誕生。

主人公が全力でダメ人間。等身大より頭一個上にいったくらいの(悪い意味で)ダメ人間なのだ。主人公が自分に「死ねばいいのに!」と断罪する程のダメっぷり。嗚呼。
しかし、そんな主人公にちょっとした共感を持ってしまうと本書は途端に面白くなってくる。何もひきこもりである必要はない。過去を振り返って甘美な思い出に浸り現実逃避をしてみたり、自分の不甲斐なさを誰か他人のせいにしてみたり、漠然とした不安に押しつぶされそうになって閉塞感を感じてみたり、そういう類の自分の中の感情から拡大解釈した上で主人公を眺めると、これが非常にすんなりと受け入れられるキャラクターなのである。

ああ、わかる「かも」。
「かも」と思った段階で、「やられた」と思った。

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