横溝正史『本陣殺人事件』

続・我が逃走

部屋の大掃除を敢行。掃除プロ谷川嬢のお陰で円滑かつ完膚なきまでに大掃除を完逐す。
さて日増しに寒くなってきたが、そんな冬の夜にこそ読みたい本がある。
作中の情景が、肌を刺す空気が生々しく感じられるはずである。
今日は横溝正史『本陣殺人事件』について感じた事をツラツラと書く。物語の核心に触れない程度のネタバレを含みます。

そこまで数多くの探偵小説を読破してきたわけではないし愛好するだけでマニアと呼ばれる人種程勉強も研究も探求もしていない僕なのだけれど、それでもやはり『本陣殺人事件』の密室トリックの美しさに勝るものはないのではないかと考える。
日本特有の欄間、水車、灯籠、竹藪を駆使して考案されたこのトリックは、恐らくは横溝正史自身も的確かつ冗長にならないような描写をするのに苦心したのではないか。所謂機械トリックと言われるものになるのだろうけれども、「本当にそんなにうまくいくのか」という疑問が頭をもたげる程複雑極まりない。
個人的には探偵小説に過剰なリアリティを求めるのはナンセンスであると感じるので、それは難なくクリアー。
後述するが、僕が感じる本作への魅力は犯人の動機にこそあるので。
さて、かくも複雑で、それでいて無駄のないトリック。そして本トリックを印象深いものに仕立てているのが、それらの舞台装置が「密室を構築する」事を目的とされていない事だ。犯人すらも計画していなかった、いわば「想定外の事態」により密室殺人に「なってしまう」。
鳥肌が立つ程に美しく、琴線を刺激される。

犯人の動機も昭和史の裏の顔とでも言おうか、現代人からすれば理解しかねるような動機なのだがそれすらも筆者、横溝正史の筆力で丹念に描きあげられ、有無を言わぬ説得力を伴って眼前に迫ってくるのである。犯人の鬼気迫る執念、そしてそれが作り上げたトリック、密室になってしまった殺人。そして探偵金田一耕助。

やはり、冬の夜にこそ読みたい傑作である

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