「で、実際どうなんですか?」
「うーん、集団入水自殺とか色々噂は聞くけれど、実際のところ真相はわからないんですよね」
「成る程。前はどこまで行かれたんでしたっけ?」
「途中で門が幾つかあるんですがね、施設みたいな所の門、確か3つ目くらいかな、そこで断念しました」
「上から人が降りてきたんでしたっけ」
「そうですそうです、足音が真っ暗な山道の上の方からジャリッ・・・ジャリッ・・・って。慌てて逃げましたよ」
吉田ヒズム氏(パイプカットマミヰズ)の運転する車の中には、ハンドルを握る吉田氏、ギバ氏(the enhance)、キャシャーン君(カイテイサカナタクサン)、そして僕の4人が乗っていた。犬山へ向かう道すがら、目的地にまつわる情報交換やそれまでの『戦歴』を話して時間を潰す。相応の距離はあるものの、ゆっくりお話する機会が今までなかったギバ氏との良いコミュニケーションの時間になった。
僕達は天狗神社に向かっていた。2年前の夏、大学時代に籍を置いていたサークルの現役生達と赴き、「逃げ帰った 」いわくつきの場所である。あれ以来訪れる機会はなかった。いや、前まで行った事はあった。しかし山道に入り、あの門の前まで立つ事はしなかった。出来なかった。
天狗神社へ、二度目の挑戦である。
一時間後、鬱蒼と生い茂る草木、そして夜の帳の向こう側から聞こえてくる鳥や虫の鳴き声、風に揺らされた葉がたてる音を聞きながら、毎回「こういう場所」を訪れる際に感じる事を感じていた。
すなわち「何で来たのだろう」。
PCのモニター越しに幾ら現場の写真を見ても、幾ら経験者のレポートを読んでも伝わって来ない、圧倒的に生々しい感覚がある。良い音楽や旨い料理、美しい景色の実際が想像を超えたというような経験ならどれだけでも大歓迎だが、ああいった場所の想像以上の空恐ろしさは御免である。
吉田君のかざす懐中電灯(余談だが彼の車にはこういう場合のため、常に警察が使うようなゴツい懐中電灯が用意してある)の灯りを、灯りだけを見つめるようにしながら歩を進める。後ろを振り返ったりしようものなら気色悪さが倍増するのは目に見えている。
隣を歩くキャシャーン君に軽口を叩いて、気を紛らわす。とんだ臆病者だ。の癖にああいう場所が好きなのだから始末が悪い。きっとまた行くのだろう。
しかしその浮ついた恐怖心も、山頂付近で氷解した。ふと何の気なしに振り返ると、そこには山間から街の灯が見える絶景が広がっていたのだ。気がつけば、随分と高いところまで登っていたらしい。どうりで足に疲労がたまっているはずだ。砂利だらけの山道、しかも雨が降った後でぬかるんでいる所を前方に注意を払いながらソロソロと登ってきたのだ。疲れないはずがない。
しかし眼前に広がる光景で、すっかり心が現れた。何だか先程まで感じていた、『恐怖』への欲望、そして浮ついた恐怖心が申し訳なくなった。
「これは、心が洗われる」
「・・・・」
皆、その光景に心を奪われたのか、それともその場の厳かな空気に身を委ねているのか口数が減っていた。
アヴァンギャルドな吉田君でさえ、神妙な表情をしている。どうやら皆、同じ感想を抱いた様子だった。
天狗神社には、心霊スポットらしい要素なんてありはしなかったのだ。
ただただ、一礼して山を降りたものである。
コメント
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天狗神社って、実際愛知県のどこらへんにあるんですか?^^
できれば詳しく知りたいです○
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>まちさん
明治村の近く、入鹿池付近のあります。赤い橋の付近、歩いていかないと入っていけないような、しかしそこそこの幅はある脇道に入っていけば行けますよ。場所とその性質上、明言は出来ませんが(笑)インターネット検索すればすぐに猛者達のレポートに当たるはずです。