今から少し前の妻との会話である。
「ギター用のエフェクター、といわれている連中を全部ベースで使えるようにする、というか使っても問題なくアンサンブルに貢献出来るような機材があってね」
「また始まった。そんな悪夢のような機材があるんだね。どんなものなの?」
「ブレンダー、といって簡単にいえばエフェクトがかかった音に素のベースの音を混ぜて足りなくなった低音とか音の芯を補うんだね」
「ああ成る程、確かにそれならなんでも繋げるようになっちゃうね。欲しいの?」
「いや、今までそれなりに買ったり試したりしてきたんだけど(注:こう言ったものの実際XoticのX-BLENDERとBOSS LS-2くらいしか所有した記憶はない。だけどブレンダーってそんなに選択肢がない印象)、なかなかこれだ!っていうのに出会えてないんだよねえ。こういうのが欲しいっていう仕様は頭の中にあるんだけどね」
「じゃあ、それ、作って貰えばいいじゃない」
「え」
このようにエフェクターについて普通にやりとりを交わしてくれる妻だが、今までの日記にも書いたかもしれないが彼女は楽器演奏はギターを嗜む程度(とはいえ僕よりジャカジャカ出来る)だしエフェクターについては一個も持っていない。最近でこそ舞台に立っていないが元々小劇場を中心に活動する俳優であって、耳は良いものの音楽活動の経験はない。これはひとえに彼女の寛容さに甘えて僕が嗜好を垂れ流しにした結果なのだが、僕と会話を交わす事で詳しくなった妻は今や僕の良き相談役で、だがしかしまさかこのやりとりの最後の発言には驚いた。
いや、尤もなのだが、まさかそんなあっさりと解決策を提示されるとは。
しかし作って欲しい仕様が心の中で決まっていて、そして何より作って欲しいビルダーの顔が思い浮かんでいるのだ、今動かなくていつ動く?
その日の夜には僕はビルダーさんに連絡をし、希望通りの仕様が実現可能である事を確認したのだった。
そして定額給付金を「経済を回せ!」という(僕の)号令の下、妻とそれぞれ嗜好品を買って良いと決めた予算の中でそれが実現出来るとわかるや否や、僕は自らの通帳に給付金が振り込まれるのを心待ちにするようになった。
振り込まれる前に我慢しきれなくなってちょっと歪みモノを買ったりしちゃったけれども、それはまた別のお話。無事に世帯人数3人分×10万円が振り込まれ、妻にお許しを頂き、所謂『ぼくのかんがえたさいきょうのぶれんだぁ』は製作にゴーサインが出たのであった。
というわけで今やペダル愛好家達の間でその名を轟かせる(RIPPER FUZZの衝撃は記憶に新しい)音響機材ブランド、ELECTROGRAVE謹製『ブレンダー』が無事に完成したのである。
コントロールは左からFREQUENCY、BLEND、LEVEL。
FREQUENCYはドライシグナルだけに効くローパスフィルターで右に回し切るとフラット、左に回していくと可聴域ギリギリっていうと言い過ぎかもしれないけれど体にクるローだけ残す事が出来る。BLENDは左に回し切ると100%ウェット、右に回していくと徐々にドライシグナルがブレンドされてくる仕様。で、LEVELはアウトプットボリューム。
ローパスフィルターを搭載して貰ったのはベースの低音域だけ取り出してエフェクトシグナルに混ぜる事が出来た方が音作りの幅が広がりそうだな、と常々思っていたから。
ファズとかにフラットなドライシグナルを混ぜた時の歪んだ音の中でドライシグナルのアタックがちゃんと聴こえてきて、それによって音程感が明瞭になる感じとか好きなんだけど、選択肢として高域~中域、場合によってはもう少し下の方までカットして信号を混ぜた方が面白い音が作れる事もあるだろうと「思いついてしまった」。
これは実機を触って思ったのだけど、実際にローエンドだけをエフェクトシグナルに足してやるイメージで信号を混ぜていくと仕上がりとしてちゃんとベースらしいローを保ちながら、エフェクターの色もより強く残せるようになった。アウトプットボリュームも爆音仕様、ここはコントロールに幅があった方が良いから有難い。
そうそう、FREQUENCYは勿論エフェクターを本機にループさせずとも効くから単体でローパスフィルターとして使う事も出来る。ローエンドだけ取り出してlevelを少し上げてやるとズゥゥゥゥウン!というローが出て圧迫感があって格好良い。勿論「ここより上はカットしますよ」周波数はスムーズに可変するからイコライザーみたいに使う事も出来る。
これを小池さん(ELECTROGRAVE)に作って頂く時は「ブレンダー迷子に決着をつけるべく」理想の仕様をお伝えしたのだけど、出来上がりは想像以上でした。これは使える。
機材棚の隅で埃を被っている連中や、今まで見逃してきた「ベースだときついかなぁ」というあいつら、全部が全部、これからはベースに繋げてやるぞ。
音の研究の強い味方が出来てしまった。
小池さん、本当に有難うございます。
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