深夜24時。
伏見は長者町、呉服屋の4階に人が続々と集まってきた。今日はJONNYのPV撮影。
呉服屋の4階、と書いたけれども、ここはスタジオライブ等も受け付けているリフレクトスタジオ というバンドの練習スタジオである。バンドの練習スタジオ、近頃は名古屋市内だけでも随分と沢山の練習スタジオがあるけれどもここの安さ、そして機材の安定性は白眉ではないだろうか。バンドマンの財布の中を確実に奪っていくスタジオ代、費用対効果を練習スタジオに求めるなればここはオススメの場所の一つである。
スタジオの回し者みたいになってしまった。しかして、それくらい僕達は融通を効かせて貰ったのだ。
夜中の10時から機材搬入、設営。たかにゃんこと伊藤君率いる撮影チームの手際の良さ、そして作業の迅速さに驚く。撮影機材の設置が終わって、ベースの音が出るようにセッティング。
そうこうしているとあっという間に一般応募したエキストラ出演者の皆さんの入場予定時刻、24時である。
ビルの4階、という一見ちょっとわかりづらい(しかも一階は呉服屋である)位置にスタジオがあるので下まで降り、入り口前でエキストラの皆さんを待ち受ける。皆様方、銘々興奮した様子でいらっしゃる。お馴染みさんからはじめましてさんまで、皆さん平日の深夜によくいらして下さった。本当に感謝しています。
で、照明及び撮影機材チェックがてら一曲演奏した後に、撮影開始。
スモークがたかれ、照明が煌々とついたスタジオ内にバンドメンバー、エキストラの皆さん、そして撮影クルーが入る。スタジオは決して狭くはない。しかし楽器に撮影機材を入れた上で、エキストラ含めた人間が入ると結構な至近距離である。
PV撮影に於いては曲と動きの同期を図るためにほぼあてふり状態(とは言っても小音量ながらベースアンプから音は出したし、ドラムもズコズコ叩いた)である。しかし全力を尽くすと決めたので、ワンテイク目だろうが何だろうが関係ない、俺はやる!
で、前述した通りエキストラの皆さんと僕の距離は至近距離。ワンテイク目が終わった瞬間に振り返るとそこには笑顔ながら目には若干の怯えの色を含んだ皆さん。
「大丈夫でした?」
「ここ、危ないですね!」
「ベースがここ(顔のすぐ近くを指す)をビュンビュン通過しましたよ!」
凄いな、興奮してらっしゃる。有難い。
ならば、遠慮する必要はありますまい。少なくとも僕の周り、舟橋ゾーンに於いては皆がガチ、自己責任の元、精一杯楽しもうと心に決めたのであった。
興奮したバンドマンが、楽器を握った上で堅実な演奏から解き放たれたらどうなるだろう?
演奏はモニタースピーカーからかつての自分達が行ったこれ以上なく正確なものが流れ出しているとしたら?
普段は「楽器を振り下ろす」で済んでいる箇所も昨夜は「楽器を振り回す」「楽器を頭の上で回す」「楽器で切り裂こうとする」に変貌したのだった。全ての楽器を武器に。僕の精神論の一つが、図らずもPV撮影という現場において顕在化した瞬間であった。YAMAHA SBVベースはそういった意味では極めて「武器」である。
取り回しの良いボディは確かな重量を持ちながらも機動性を確保し、リッケンバッカーをひっくり返したようなボディシェイプはツノを持って振り回すのに丁度具合が宜しい。そしてエレクトリック・ベースで炸裂した『牙突』。某少年コミックにて新撰組十番隊組長 斉藤一の必殺技として数多くの名場面を彩ったあの技が、ついに楽器にて炸裂した事を記録しておく。
シールドが抜けようがエフェクターがひっくり返ろうが、とにかく全力!
エキストラの皆さんも、もう本当に気が狂っているとしか思えないような盛り上がりっぷり。
アルコールを摂取して撮影に臨んで頂く、というこちらの計画はハードコア連中によって想定以上の破壊力を生み出し、気がつけばモッシュ以上の何か、もみくちゃになりながらひたすらに暴れまわるエキストラの皆さん。知り合い同志だろうが、はじめましての関係だろうがそこには過去の人間関係は一切関係なく、年齢、そして性別の差を越えたヴァイヴスが確かに存在していた。
当初の予定では60分撮影、10分休憩のタイムスケジュールを組んでいたのだが、一度の撮影でスタジオ内は酸欠状態になり、温度は急上昇(壁一面に貼り付けてあった鏡がすぐに曇ってしまう程)。安全性の保持という観点から一度撮影してはすぐさま「はい呼吸してきてー!!」とスタジオの外に皆飛び出し、暫時の休憩の後に再び撮影再開というもう何だか戦場のような狂乱と興奮の中で撮影は敢行されたのだった。
忘れずに記述しておきたいのは、エキストラの皆さんのテンションが撮影終了時まで一切下がらなかった事である。室内温度、そして勿論アルコールの効果はあるだろう。しかしテイクを重ねれば重ねる程にボルテージが上がっていくエキストラの皆さんの気迫、興奮。あれは本当に良い画が撮れた、と素人ながら自信を持って言わせて頂きたい。
壮絶なる撮影が終了し、撤収も終えたのは明け方6時過ぎ。破損した機材は一つもなく、勿論怪我人も出なかった。大量のビールの空き缶、そしてゴミは出たけれどもそんなのものの数じゃあないね。
PV完成、お楽しみに!JONNYというバンドがどんなテンション、気迫でライブに臨んでいるかご理解頂ける作品に仕上がるかと思います。
打ち合わせ、下見から当日の進行、そして勿論撮影と何から何までしきってくれた伊藤君、そして撮影クルーの皆様、翌日予定があるにも関わらず、また遅い時間で決して参加が容易な条件ではなかったにも関わらず参加して下さったエキストラの皆様、そして色々と融通を効かせて下さったリフレクトスタジオ様、本当に有難うございました。
何より楽しんだのはメンバーに違いない!すまん!
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