キング・クリムゾン 大阪公演に行った話。

キング・クリムゾン(以下時と場合によってはクリムゾンと表記)のジャパンツアー。
友人と「クリムゾンがトリプル・ドラムで再編成だって」「サックスのメル・コリンズ再参加だって」「うっひょー」「日本に来るならいくらまで出す?」みたいな話をした記憶がある。その時に口にした金額よりも遥かに安い15000円のチケット、お布施だのなんだの言われるけれどもまあ何だかんだファンは心の中では「余裕だろ」と思っていたに違いないけれども、ライブを観た後の僕なら大笑いしながらだって言える。
「15000円は安過ぎた」と。
キング・クリムゾンの大阪公演(12日フェスティバルホール公演)に行ってきた(名古屋公演の日は予定があってどうしても体を空けられなかったのである)。素晴らしい体験だった。拙い文章だけれども感想を綴っていこうと思う。
所謂「ネタバレ」の要素を含んでいるしまだ名古屋公演も控えている時分である。公演を観に行く予定の人がもしこのブログを読んでいるようだったら注意されたし。

名古屋からJRハイウェイバスで単身大阪に向かう。ウトウトしていると3時間というのはあっという間だ。大阪駅に着いてからは地図アプリを起動してフェスティバルホールへ向かってテクテク歩いた。耳に突っ込んだイヤホンからは勿論キング・クリムゾン。
あと少し、あと少しで本物のキング・クリムゾンの演奏を聴く事が出来る。思えば10年前に、何の気なしに聴いた『クリムゾン・キングの宮殿』の衝撃。あれから僕は「継続」と「鍛錬」の美しさと「前進的である事=プログレッシヴである事とはどんな事であるのか」という事をこのバンドのCDを聴きながら教わったのであった。音楽的には明らかにその影響下にない人間との演奏時でさえも「本当の意味でのプログレッシヴとは」という自問自答が役立つ事は決して少なくなかったし、例えば新編成について尋ねられた際のロバート・フリップ先生の「やってみないとわからない」と応えるその姿勢、いやそういう編成でバンドのサウンド構築、音楽に臨む姿勢に僕は大いに影響を受けたのであった。音楽演奏の精神的支え、その一つがキング・クリムゾンだったのである。
話が大いに逸れた。失敬。

さて会場入りして長蛇の列に並びグッズを購入したり大きな会場に戸惑った話等は端折って良いだろう。
3階席の比較的後ろの方だったのだけれども、ステージをほぼ正面から見下ろす位置だった事が幸いした。また父から借りてきた10倍のオペラグラス、これのお陰でメンバーの表情から手元まで観る事が出来たのも感激だった。
さて初めて観たキング・クリムゾンだったのだけれども一言で言えば「最高」。ここがこう良かったとかあそこがああだったとかは色々言う事が出来るけれどももう少しだけ細かく言うのであれば「聴きたい曲全部やってくれたしトリプル・ドラムクリムゾン凄い!フリップ先生のギター格好良い」である。

もうね、開演前のフリップ先生のアナウンスだけで会場は大喝采。
「撮影は不可、録音も禁止。(中略)我々キング・クリムゾンのパーティーを楽しんで欲しい」。怒号と歓声で溢れ返る会場。皆待っていたに違いない。
セットリストについてはまとめているサイトもインターネット検索で容易に見つかったのでここにセットリストを転載するような事はしないけれども『 Larks’ Tongues In Aspic Part I』のあのリフが鳴り響いた瞬間、3台のドラムセットが打ち鳴らされた瞬間のヘヴィさ(ちなみにマステロット先生がミューアのあの正気じゃないようなパーカッションを再現していたのに興奮したのは僕だけではないはずだ)は減編成のクリムゾンの強靭さを知らしめるのには十分過ぎたのではないだろうか。そう、トリプルドラムのクリムゾンは整合性と強靭さと柔軟性に満ちた素晴らしいものだった。曲によってはビル・リーフリン先生が鍵盤を弾き楽曲の再現性(特に歌モノ路線の曲は新編成でもそれとわかるようにツボを抑えたアレンジが施されていて、そういう時にはリーフリン先生が一役買ってたと思うの)を高め、ギャヴィン・ハリソン先生は機材トラブルにも勇猛果敢に挑むドラムソロで魅せ、マステロット先生は重量感溢れる(失礼)ドラムで流石の貫禄。トリプル・ドラムの面白さはアレンジの分担等にも顕在化していて、ああ、何て有機的...と感動した。
歌モノ路線に関しては再現性も高かった、と先述したけれども『第8期クリムゾン』を強く打ち出したのはそれと比べると『Red』等の曲なのかもしれない。もうビートの感じからして全然違ったもの。でもちゃんとこっちが興奮出来るようにそれらしい部分も残してあってそのバランス感が最高だった。
『Larks’ Tongues In Aspic Part I』『Red』『Starless』『Easy Money』『Larks’ Tongues In Aspic Part I』、そしてこの日一番歓声が大きかったんじゃないだろうか、『21st Century Schizoid Man』。
これを列挙するだけで懐メロ大会になりそうなのに微塵もそんな気配がない。バンドが、演奏がきっちり現在進行形にアップデートされていて「昔のヒット曲を年重ねたメンバーが(ちょっとヘロヘロになりながら)やってる」感が全くなかった。
ロバート・フリップ先生は隣に座ってた好事家風男性も言ってたけど一聴しただけでそれとわかるトーン。あんな演奏を観たらそりゃあ一日8時間ギター弾く大切さを僕でも痛感するってもんだ。
ベーシストとしてトニー・レヴィン先生はどう思うかって?最高に決まってんだろ!
メル・コリンズ先生はフルートソロで「君が代」をオマージュして湧かせて下さるし汗だくでの演奏もグッと金玉にクるものがあった。
ジャッコ・ジャクスジク先生の歌声も伸び伸びと力強くロマンを感じるものであった(ボソボソと書くけれどもブリュー先生より個人的には好きかもしれない...)。

物凄い説得力でキング・クリムゾンがやっている事やってきた事、そしてその精神性と発展性を見せつけられた。
大いに満足だしとてもとても刺激的だった。
有難うございます、キング・クリムゾン。
俺も頑張ろ...!

写真は「バンドのベーシスト トニー・レヴィン氏がカメラを構えている間は撮影してOKです」の瞬間。

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