魔術師の選択

山城新伍さんが亡くなったと聞いた。

養護施設に入ってらっしゃるとは全く知らず、そして70歳で亡くなられたと聞き「もうそんなお年だったのか」と時間の流れを意識した。
山城新伍さんと言えば幼い頃に観ていた「クイズ世界はショーバイSHOWバイ」(表記があっているか自信なし)と「古畑任三郎」でのゲスト出演だろう。氏のキャリアから鑑みるとその程度か、とどやしつけられそうではあるが、それでも幼年期に愛したクイズ番組と今なお愛して止まない倒叙物において氏が遺したインパクトは相当なものである。

「クイズ世界は~」では山瀬まみへのツッコミ役、そして某番組に於ける黒柳徹子のような、難問にその知識を以てして正答するような知性派のイメージが強い。洒落のわかる、しかしてご自分の信念、正義が確かに存在するであろう「格好良い大人の男性」という印象である。

僕の中でそのイメージが役柄と結実したのが「古畑任三郎」第二期「魔術師の選択」である。
犯人を演じるゲストが錚々たる顔ぶれで有名である本シリーズだが、山城新伍氏はその中でも堅実かつ硬派なゲストだった、と感じる。
ダンディーで大人の色気を振りまくマジシャン役なのだが、抜群に格好良かった。古畑との知能戦も余裕綽々の態度で臨み、看破された際には潔く罪を認める。
動機は実は娘である後輩マジシャンを思いやっての事であり、逮捕後も自分が父親である事を明かさぬよう古畑に頼む姿勢、そして「あれにあれの母親と同じ思いはさせたくなくてね…」と呟くその表情は、山城新伍氏の「女好き」なイメージを逆手にとった(視聴者は山城新伍氏が『女好きの男』であってもその実『影ながら自分の娘を見守る父親』だとはなかなか思わないだろう)脚本、そして氏の演技という要素からも見事な「ひっかけ」だったと言えるだろう。配役を考えてから脚本を書くという三谷幸喜氏のセンスがキラリと光った。

本作で山城新伍氏が古畑に解説がてら披露した「マジシャンズ・セレクト」、僕もたまに宴会芸としてやっている。「アッ」と驚かれないのは人間としての含蓄の違いだろう。

ご冥福をお祈りします。

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