「夜はいよいよ冴えたのだ」

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先日9月2日、以前から乗っていたプジョー社のマウンテンバイクに相当ガタがきていたので、タイヤのパンクで絶望した際に買い替え(プジョー君は伊藤誠人君に譲渡予定)を決心、こんな素敵なマウンテンバイクを購入。
ブリヂストン社製のものなのだが、どことなくゴツくて色も具合の良いカーキ色なのでBIG MUFF(made in Russian)号と呼んで可愛がっている。

で、BIG MUFF号を買ったその足で鶴舞K.Dハポンに向かう。
この日はわかめさん(龍宮ナイト)主催OTO no MARCH with ギブミーベジタブルに出演。
OTO no MARCHとは2011/3/11の”あの震災”に対する日本人としてのわかめさんの一つの答えだと僕は思っている(選手宣誓はこちらから)。僕は僕なりに思うところがあって、しっかりとその辺りをわかめさんとお話した上で今回も出演させて頂いた。「自分が何かする」という事に関して一緒に何かやる人に100%の理解(共感、ではない)を求める事っていうのはこうして言葉にすれば当たり前のように思えるけれども、重箱の隅をつつくような観点で語るのであればライブの主催者と出演者の間では成立していない事って意外とあるのじゃないかと思ってる。それが問題ってわけではなく、それをやりだすと恐らく一緒にやれないだろう、というのがうすらぼんやりとわかっているからこそ曖昧模糊にしてあるっていう状況もあるのじゃないのかな。それはある種お互いを尊重しているけれども、僕は今回それをしなかったし、わかめさんも僕のそんな潔癖性に対してわかめさんの気概で応えて下さったと思ってる。
話が大きく逸れてしまった。要約すると、僕のように扱いづらい(言う程でもないかもしれないけど扱い易いとはお世辞にも言えないだろう)のを今回もまた、誘って下さって本当に有難うございました。僕のソロ出演ってまだまだやるべき事、練っていく事の方が多い気がしているしそこはバンドを誘った方がシンプルっていうかわかりやすいはずなのに、僕の気概と僕の意欲、そして何より僕の突破力を信じて下さって本当に嬉しかったです。

そう、今回はわかめさんと出演のお話を頂いたその場から、あの居酒屋の一席から今までこんなにしなかったんじゃないかってくらい打ち合わせをした。前回は犬丸ラーメンで参加したOTO no MARCHだけれども、今回は舟橋ソロ=未確認尾行物体。僕次第でやる内容も変わってくる。イベントの趣旨的にっていうかわかめさんの意気込みを裏切るような内容は選定したくなかったので、そこには異例であるしプライドもへったくれもないけれどもわかめさんにも事前にやる内容の承諾は頂いていた。
今回僕が選んだのは宮沢賢治先生の『フランドン農学校の豚』。先生が亡くなられた翌年に発表され、一部冒頭の原稿が見つからない故に完全ではないのだが、その独創的な発想と結末の悲痛さから色の強い作品であると言える。僕は今回この作品を題材にするまでこの作品を知らなかったのだが、それであるからこそ新鮮な間口と新鮮なものを人に伝える際に普遍性を伴って「騒ぎを」「演じる」=演騒する事が出来るのではないかと思ったのだった。
先日の名演も記憶に新しい孤独部のかしやましげみつ君、そのギタープレイで「ファズはこう踏むんだよ」と教えてくれる壊れかけのテープレコーダーズのコモリ君に出演オファーの快諾も頂き、当日まで一切練習やら何やらしなかった。新鮮な方が、良い。

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会場入り後、K.Dハポンのすぐ近くにあるマックスバリューで野菜を買う。
ミニトマトを買っていたら「大きいトマトの方が良いんじゃないですか」って言うし「ジャガイモは流石に無理だよね」って僕がふると「いけるんじゃないですか?」と切り返すかしやま君。
彼も後々これらの野菜がどうなるかわかっているだろうに、何て男だ、と眼前の男の貪欲なまでのエンターテイメントへの愛情に戦慄。

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今回の未確認尾行物体
舟橋孝裕/朗読、農学校長、畜産の教師、助手、小使
かしやましげみつ(孤独部)/豚 ヨークシャイヤ
コモリ(壊れかけのテープレコーダーズ)/即興演奏

フランドン農学校の豚』、どんな顛末かご存知か。
動物を屠殺するのに、その動物本人の署名が必要になった時代。
農学校で飼育されていた一匹の豚が屠殺される様をその豚、ヨークシャイヤ視点で描いた作品。
「生き物は皆、死ななけぁならんのだ」とか「おまえの体はぜんたい、この学校の金で出来ているのだ!」と豚に詰め寄る農学校長。しかし豚は知っている。それまで「白金のようだ」と賞賛されてきた自分の体が、実は食肉としか見られておらず、目の前の校長の手にあるその証書に署名する事によって自分は近いうちに屠殺されてしまうのだ、と。
このくだりのかしやま君の演技は、素晴らしかった。

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ジューサーにマックスバリューで購入した野菜を入れて、ジュースを作っているシーン。
ちなみに中身は
・バナナ
・トマト
・キュウリ
・スポーツドリンク
である。

コモリ君の演奏も実に素晴らしかった。あの人、凄いよ。
生粋の宮沢賢治ファンである彼は「演奏は任せてよ」と即興演奏でその場を彩る事を快諾してくれたのだが、ギターで風のふく情景、雪の積もっていく様、ヨークシャイヤの心理状態を”描き”出した。最後の最後まで残されていたBIG MUFFが空間をつんざいた瞬間はそれまでの演奏全てを更に昇華させていた。

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先程作ったジュースを「人工肥育機」を通じてかしやま君、否、ヨークシャイヤの口の中に流し込んでいる様子。
ついつい興奮してしまって数リットルのジュースを流し込んだのがいけなかった。
…吐き出されたジュースは床を汚し、そしてヨークシャイヤはジュースまみれになってフロアに横たわっていた。
僕は一瞬、畜産の教師の助手から終演後の事を心配する舟橋孝裕に戻っていた。畜生、修業が足りない。
K.Dハポンの皆様、至近距離でご覧になられていたお客様、そしてわかめさん、ご迷惑をおかけしました。
そして有難うございます。

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3人で記念撮影。その写真。
今回の未確認尾行物体、前例がない程収穫の多いものとなった(別にイベント名のギブミーベジタブルとかけたわけではない)。そして、純粋に面白かった。かしやま君も楽しんでくれたようだし(生粋のプロフェッショナルである彼はそれ以上に悔しかったようでもあるが)、コモリ君も演騒終了直後にすぐ様「楽しかった!」と興奮した口調で告げてくれた。2人の芸術家と臨んだ「フランドン農学校の豚」、表現欲求を満たした上で結実したし、そして何より次回への展望が見えた。言う事なし。
お客様の反応も良かったし、僕が結果的に「エグい」事になるのを期待してわかめさんはオファーして下さってたそう。うん、じゃあ悔いも何もありゃしない!

片付けを終え、ハポンの2階から観た壊れかけのテープレコーダーズの演奏は素晴らしかった。
幽玄的で、バンドメンバーは本当に生きている同じ人間なのかとさえ思った。
終演後にしきりに「今日のイベントは素晴らしかった」と繰り返していたコモリ君。あの演奏を観たら彼がこの日どれだけ芸術家として刺激されたのか納得すると思う、皆。

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