鈴木実貴子ズ『あばら』発売に寄せてベース録音の思い出等々。


鈴木実貴子ズのメジャー1stアルバム『あばら』が発売になった。
紛れもなく、傑作で意欲作。
本当におめでとう。

鈴木実貴子ズには時折ライブで披露されるバンド編成というエレキギターとベースを加えた形態があり、各務鉄平君と僕がそれぞれの楽器演奏を請け負っている。
所謂サポートメンバーという奴だが『サポートメンバー』という仕事感の滲んでくるその言葉に相反して実態は非常に自由。
基本的に好きにやらせて頂いて「それはやめてください」という事さえしなければ特に怒られる事もない。
勿論各務君も僕もそれぞれの責任を背負いながら演奏に臨んでいるわけなのだが、まあ何だね、正直僕は兎に角「楽しい楽しい」だけで続けてきてしまっているよ。
有難い事に「楽しい楽しい」と言いながら「ベース弾いて貰えませんか」と録音でも声をかけて頂けているので、これまでも複数作品複数曲にエレクトリックベースギターの演奏で参加させて貰ってきたのだけれども、まさかメジャー1stアルバムにも参加する事になるとは思わなかった。
折角の機会なので『あばら』の中で僕が演奏で参加した曲について、以下収録順に思い出をそれぞれ書いていこうと思う。

4.ファッキンミュージック
録音した日に日記も書いているけれども、録音したのは2024年3月21日。
会社の有給休暇で平日休みの時に、各務君の家にベースギター担いでペダルボード抱えて行って録音。
ベースはいつものYAMAHA SBV-550。BOSS TU-3w(バッファ兼チューナー)BENDS(コンプ)サンズアンプToneJobを通した後にプラグインのアンプシミュレーター(ギャリエンクルーガーもどき)を通した完全なるライン録音。
各務君ちで録音する時は基本的にこの組み合わせなのだけれども、普段アンプのスピーカーから鳴る音よりもヤクザっぽい音がして「格好良いな」「本当にこんなドライブしてて良いのかな」「いいんじゃないかな格好良いし」という感じで録音。
最初に各務君がギターフレーズ案を出すために2人に提出したデモでは確かベースが半音下げとかそんな風になっていた記憶があるのだけれども(E♭を4弦で弾けるようにするため)、僕はどうしても半音下げのダルダル感が好きになれない。しかもライブで先に演奏する事になったのでレギュラーチューニングで弾けるようにE♭を3弦で弾くようにオクターブ上げて弾き続けていたのがそのまま定着、録音もレギュラーチューニングで行った。
改めて聴いてみるとグインと上がる音がサビの中で出てくるのはそれはそれで動きがあって良い。低い音だけ出してりゃ良いってもんでもないしね。
曲の殺気というか怒気というか、そういう気迫みたいなものを後圧し出来るように気合を入れて怒涛のルート弾き。

6.ベランダ
この曲も録音した日の事を日記に書いている。録音は2023年12月29日。
母が亡くなった直後で色々な気持ちが萎えてしまっている中、無理やりにでも手を動かさねばと意識的にバンド活動を再開していた頃である。鈴木さんや高橋君、録音を手伝ってくれている各務君からは「急いでないので無理せず」と優しい言葉をかけて貰った。
録音は『ファッキンミュージック』と同じベース(というかそれしか使わない)に同じ足元。この曲の録音で良い感じだったのでその後に録音した『ファッキンミュージック』もその組み合わせで録音したんだね。
録音は深夜まで及んだ。録音を終えた後、実家近くのコインパーキングで車に乗り込む時に時間も時間だからか人気もなく「ああ、こうやって1年終わるんだな」と思った記憶がある。
精神状態的には決して良くなかった頃の録音物であるけれども、それでもこうやって多くの人の手を通って楽曲の一部になっている事というのは尊い事だよなあ。

8.チャイム
手元に残してあるメモでは録音は2024年8月上旬。
それまで各務君の自宅で録音していたものの、白線の内側のアルバム制作を一部自宅で録音した事をきっかけに「俺、家でもベース録れるんじゃ」モードに突入。演奏は兎も角、品質的に僕の自宅録音データが大丈夫なのかは定かではなかったが2人からは「OKです!」とリアクションがあったので結局そのまま納品したデータが採用された。
おいおい、少なくとも録音する事に関しては素人に毛が生えたレベル以下の僕が「兎に角パソコンに入っているソフトを使って」「自宅にある相応のオーディオインターフェースで」「自分で録音開始ボタンをクリックして」「自分で録音終了ボタンをクリックして」録音した演奏がメジャー流通するアルバムに収録されてしまったぞ。
何とも夢のある話である。ちなみに完成版を聴くと流石人様の手を通った自分のデータはそれなりに遜色ない品質で音楽に馴染んでいるのであった。凄い。
ベースは書くまでもなくYAMAHA SBV-550。上記2曲のセットに加えてEarthQuakerDevices Monarchを「レンジを良い感じに狭める」ためにオンにして録音。
ライブではリバーブとかかけたりしているけれども、録音時には人様の手にミックスを委ねるわけなので少しでもミックスしやすいようにという意味で空間系はかけないようにしている。
音色こそいつも通り適度にドライブしているけれども、演奏はあくまで情景を描くように柔らかいタッチを意識した。
意識だけ、だけどね。

10.ベイベー
自分の記録上では『チャイム』を録音した数日後に録音している。
ライブで何度か演奏した上で録音に臨んだので結構すんなり弾けてしまったんだね。
歌とギターのジャーンだけで「良い曲だな」と思う曲は兎に角ルート音を口半開きで棒弾きするだけでもベースパートとしては美しくなってしまうというのが持論としてある。完全に持論だが。
で、この曲に限った話ではないけれども鈴木実貴子ズの曲って結構そうで、まさにこのベイビーなんて歌聴きながらルート音を口半開きで追っているだけで良い気分になれてしまうのだ。
『ファッキンミュージック』みたいに「ブッ〇す!」みたいな曲は当然心にクるものがあるけれども、この『べいべー』みたいな曲も僕は大好きです。良い曲。

12.私、天使だっけな
自宅で弾いた収録曲は『チャイム』『ベイベー』に加えてこの『私、天使だっけな』の3曲である。
録音は実は一番最初、2024年6月終わり頃。日記にも書いている
「ボーナストラックなんで」と言われたわけじゃあないけれども、そういうニュアンスというか「楽しい曲」という他の曲とは違ったニュアンスでベース演奏のお話を頂いた。
送られてきた曲を聴くと「お!楽しい!」と思ったのでその第一印象を大切に、辺にゴリゴリやるよりも適度に可愛らしいというか暖かいというか、そういう音でポコポコ弾くのがよろしかろうと思ったのだった。
ブリッジにタオルとか挟んで音の伸び方を変えたり、とか試したような試してないようなそんな記憶があるけれども、結局いつものバッファとコンプとサンズアンプとEQの組み合わせを、諸々全部抑え目にして音作りした上で『使うと指弾きっぽい音になるピック』(普通のピックがゴム素材で両側から挟まれているもの)を使った。
スライドホイッスルとかリコーダーとか楽しい音が一杯入っているのでベースラインもユーモアの要素を意識して(あくまで意識ね)弾いた。
こういう曲も大いに楽しい。

ここまで書いておいてナンだが、いずれの曲もまさかメジャー1stアルバムに収録されると思わずに弾いてるもんだから、いやはや今回のアルバム発売は大変おめでたい、嬉しい事なのだけれども同時に曲目を見て驚いたのであった。
1.5畳の自部屋でどうにかこうにか鼻息荒く、娘達が寝静まった後を狙ったりして録音したベース演奏がまさかこういう形で世の中に出回る事になろうとは思いもしなかった。
会社員の趣味としてのバンド活動としてはなかなかない事であろう。有難い限りだ。

同時に、JONNYで活動を共にしていた篠田君(シノダ君と書くべきなのかもしれないがやはりどうにもしっくりこない)とJONNYぶりに同じアルバムに演奏が収録される事になった。
田渕ひさ子さん(ex.NUMBER GIRL)や五味さん(LOSTAGE)が演奏で参加しているアルバムに演奏を連ねるという事も結構凄い事なのではと思うのだけれども、旧友とこういう形で『再会』出来た事も浪漫がある。
バンド活動を続けていると胸が熱くなるような愉快な経験が出来るものだ。

鈴木実貴子ズ、ありがとうそしておめでとう。これからも引き続き(何かあったら)よろしくお願いします。