オクターブファズを自作した。なかなか良い。


ファズを自作したので、日記を書く。

人間椅子の和嶋さんのこのコラムを読んでからというもの、エフェクターの自作という行為に関心はあった。
「手を動かした結果」「自分の好きなペダルが手に入る」という僕からすれば一石二鳥のこの行為に手を染めなかったのは、ひとえに知識と経験不足故である。電子工作の経験はかつて半田ごてを日々握っていたが故に技術的には巧みであるとは言えないまでも、人並みにはあると自負しているのであるが、知識については回路図なんて読めないし、そもそもエフェクターがどうして音が変わるのか、というあたりからちんぷんかんぷんであるからして、部品を集めて回路を作って自作してなんて夢のまた夢であったわけだ。

けれどもELECTROGRAVE 小池さん主催のワークショップを手伝ってきて、半田ごてを握って作業する事の楽しさと精神修行ともいえるストイックさを肌で感じ、自作という行為にますます関心は高まってきた。
妻から「人の作った作品を買って使う事に浪漫を感じているのでは」という言葉を投げかけられ、確かに僕がペダルに感じているものはそういった浪漫なのだろうなと思いつつも、自分の中のペダル製作への欲求がもう少し高まったら手を動かしてみる事も良いだろうと考えてはいた。

妻は最近、アクセサリーを自作している。百円均一で材料を買っては夜な夜な作業をしており、完成品を見せて貰うのだがいずれも良いもので、本人も満足そうだ。兎に角無心で手を動かす事の愉しさを目の前で繰り広げられるともう我慢出来ない。
ペダル製作への知識不足は、製作キットを購入する事で問題を無効化する事が出来る。
かつて一度、オクターブファズの製作キットを購入して見事に失敗したのだが、その時に利用したサイトで今度は『ベース用の過激なファズ』の製作キットを発注したのであった。

「仕事の平日休みに朝から楽しく作ろう、何て素敵な休日!」と考えていたのだが、気合を入れて新しい半田ごてを買ってしまい、いざ手元に製作出来る状況が出来上がると我慢出来なかった。
22時過ぎ、妻と娘が寝静まった頃にリビングで行動を開始した。


今回購入したのはキットの説明文からも明らかにベースブラスマスターを意識したもの。愛用のファズコレクションの中にmalekkoのブツがあるので動作の比較もしやすい。これはどうなるか楽しみじゃわい、と製作を開始する。
抵抗のカラーパターン(黄黄橙金、とか茶赤橙金、とかそういう色の線が4本入っている。抵抗の値ごとに違うのだ)はワークショップでも触れられていたように、非常に色を混同しやすい。抵抗の値を測定すれば間違いはないのだろうけれども、確実なものから基盤に半田付けしていく消去法で作業を進めていく。必要な部品は全てキットに入っている。唯一半田だけは自宅にあるものを使用した。これを作った時に購入したちょっと良い半田が残っていたのでそれを使用。熱を入れた時の溶けやすさが、得体の知れない半田よりも溶けやすく流れやすいように思ったがきっとこれは気のせいだろう。

抵抗はこのカラーパターンはこの値、という一覧があるのでそれを読み解いては基盤に半田づけしていく。
目が疲れてきた頃に全部終わった。で、次にフィルムコンデンサーをつけていくわけなのだがそれらしい部品の中でどれがどれだかわからない。今回3種類それらしいものがあるのだが、どれがどの部品なのか判然としないのだ。ああ、ここで知識不足が仇になったか、と嘆きそうになったのだが、試しに部品に印刷されている数字とアルファベットの羅列でインターネット検索。
…調べてみるものだ。どれがどの値のものなのかちゃんとわかる。メモを取りながら、選り分けていく。
今回感じたのはこのキット、完全な素人からするとちょっと不親切なのだけれども、この調べたり迷ったりする行為も手応えがあって面白かったな、という事。マニュアル通りに猿でも出来る!というわけにはいかないけれども、ちゃんと腰を据えてじっくり臨めば完成出来るようになっており、完成した時の達成感、脳汁が出る感覚はひとしおであった。


配線も、最終的には結構な本数を半田付けした。
配線材も同封されていたのだが、適当な長さに切り分けたら結構それぞれジャストの長さで、これも何となくイメージ出来たのはワークショップを手伝っていたからだ、と経験に感謝した。


完成した頃には何と27時。夜中の3時であった。
イヤホンで音楽を聴きながら兎に角黙々と作業をしていたのだが、時間が経つのはあっという間だ。途中で休憩らしい休憩も然程挟まず、兎に角集中しての作業。5時間黙々と半田ごてを握っては部品を取り付け、あーでもないこーでもないと試行錯誤したのであった。実に楽しい5時間であった。
さて、問題は音が出るかどうかである。
緊張しながらシールド等々接続、スイッチを入れる。LEDが点かない。だけれども、音が変化している感覚はある。まだ実際にベースギターを接続しているわけではないのでちゃんと各コントロールが動作しているかは未確認だが、オンにするとノイズが増幅される感覚はあるので、ファズはファズらしく仕上がっているようであった。
結局、LEDに極性がある事を失念し、反対に半田づけしていたようですぐに事無きを得た。
LEDもちゃんと点灯し、ベースギターを繋いで音を出したところちゃんと動作している様子。この段階でもうすぐ夜明けという時間になっていたのでこの日はここまで。就寝した。

翌日、娘の寝かしつけ後に僕は単身スタジオに乗り込んだ。
音をチェックするにはやはりデカい音で、空気感を感じながらに限る。自宅環境のライン音源ではファズという楽器の妙味を感じるには限界があると判断したためだ。
折角1時間個人練習でスタジオを予約したので、この機会に自分の楽器の出力がどれだけ大きいかスタジオレンタル用のジャズベースと比較する。愛用のベースギターが改造の結果「出力も倍、ノイズも倍」となってしまっている事は何度もこの日記で触れてきたけれども、その結果バッファと音量をただただ下げるためのパッシブ・ボリュームは僕にとって必需品となった。
エフェクター類に適正な動作をさせるためにはここの調整は必須である。

この作業を済ませ、この日の本来の目的である自作のオクターブファズの試奏へ臨んだ。
自宅環境では手持ちのmalekkoのファズとほぼほぼ同じ手応えを感じていたのだが、アンプを通して聴くと結構な差異が感じられた。当たり前なのだが、ファズサウンドの風合いが異なる。自作ファズはよりオクターブ感が強く感じられ、それであるが故にバイパス時よりも若干腰高になったドライシグナルと混ぜる際に、malekkoのものより加減して混ぜる必要がある。
この若干腰高になったドライシグナルと過激なファズサウンドを混ぜるものだから、なかなかバランス調整がシビアなのはいずれのモデルにも感じられる点だった。ドライシグナルと低域の量感を揃えようとバランスをとっていくと、僕の嗜好ではどうしても爆音になってしまう。そこから音量を下げていく方向に再度調整を繰り返すのだが、これがなかなか難しい(ちなみに比較した結果、トータルで音作りは意外にも自作の方がしやすかった。これは贔屓目もあるかもしれないが!)。
けれどもうまくハマッた時の凶悪さはなかなか他のペダルでは得難いものがある。一つの強力な兵器を手に入れたような気分だ。
汎用性をもってどこでもガンガン使える、という代物でもないけれども爆音になりがちなところは多少目を瞑って、思いっきりぶっ放せるような環境では最強の威力を発揮するのではないかと感じられた。

自作ペダルに愛着を感じるとは思いもしなかったが、ちょっとしばらくペダルボードに組み込んでみようと思う。
鈴木実貴子ズでは使うと怒られるかもしれないけれども、パイプカツトマミヰズなら生き残り合戦のアンサンブルだ、誰も文句を言うまい。「でけえ!!」くらいは言われるかもしれないけれども。