人生で初めてのマラソンに出場した日記

人は何故走るのか。
そんな事を漠然と考えながら2026年3月8日9時40分頃、僕はスタートゲートに向かっていた。

会社の上司から「3月にマラソンに出場するのだけれども、舟橋君もどうか」と声をかけていただき名古屋シティマラソンに出場する事を決心した。普段からマラソンはおろかジョギング程度の走る行為さえ全くせず徹底的にインドア指向の僕が何故「お!出ます出ます」と即答したかというと至ってシンプルに「今回のこの機会を逃すとマラソンを走る機会なんて多分二度とないぞ」と瞬間的に思ったからであった。
普段する機会もないであろう事に挑戦するきっかけが飛び込んできたら、基本的にとびつくようにしている。
1つの行為や営みにしっかりと取り組んで深く深く追求していく事も素晴らしいが、色々な経験をする事で新しい刺激を受ける事は人生に於いてきっと素敵な事だろうと思う。
それに上司によると今回走るのはナゴヤRUNというバンテリンドームナゴヤからパロマ瑞穂スポーツパークまでの7.758km。
いきなりハーフマラソンで20km以上走るとかより現実的だと思われた。
マラソンを走るという実績解除をするなら今だ、と思った。

マラソンに向けて走る習慣を少しでも身に着けようと妻と一緒にマラソンウェアをファッションセンターシ〇ムラで購入して家の近所を走るようになったのは確か2月頃だった。練習しなきゃなあと思いつつ、何だかんだでそんな土壇場での練習になってしまったのだった。
「日常的に少しでも走っていれば、マラソンを走る体になってくるよ」と毎週末5km以上走っている上司が教えて下さった。
『マラソンを走る体になってくる』という表現に妙にそそられるものがあった。僕もそれなりに走り込めば『マラソンを走る体』になれたのかもしれないが、何だかんだで3km程の距離を数回走り、何となくそれなりの距離を走る感覚を掴めた頃に当日を迎えた。


スタートは10時30分頃だったが、スタート前にも色々あるとの事なので7時45分にランナーズゲート前に集合する事になっていた。
勝手がわからない緊張と興奮で早朝に目が覚めたので、何だかんだで7時頃にはバンテリンドームナゴヤ辺りに到着。
随分と気が急いている。自覚はあった。
市営バスで会場近くまで行ったのだが、いざバンテリンドームに近付くと驚いた。週末の朝7時前に、往来にこんなに人がいるだなんて想像も出来なかった。そこかしこに人、人、人なのである。きっと昼時でもこの半分も人はいまい。
兎に角お祭り騒ぎなのであった。

会社で『マラソン部』と称して集まった有志が集合し、ドーム内のベンチに腰掛けて時間を潰す。
柔軟やらウォーミングアップに費やす一団もいたけれども、我々はベンチに座って「寒いなあ」とか言いながら雑談してスタートゲートへの移動時間を待った。
トイレに何度か行ったけれども常に激烈に混んでいた。腹痛にならなくて良かったと思う。小の方は空いていたけれども大の方が長蛇の列。


スタートゲートに向かいながら改めて参加者の人数に驚く。
これだけ多くの人が『走る』という行為のために集まり、そして走ろうとしている。
一体、人は何故走るのか。
7.758km走り切った時にその答えが僕にもわかるのだろうか。
いざ、スタート。

公道に出て走り出すと目の前を上司が人の間を縫うようにして駆け抜けていった。
流石走り慣れている人は違うなあ。僕の倍くらいのスピードが出ているんじゃないかしら。あの速度を維持して走るのであれば40分もあれば走り切れてしまうんじゃないかしらと思われた。
さて、僕は兎に角完走する事を目標にして、自分のペースを崩さずにコツコツと継続的に走る事を心掛けた。
周りがどれだけ早くても焦らず、マイペースに走り続ける。『完走する事』を目標からずらさずに据えてゆっくり目に走り続けた。時々足が痛くなりそうだなと思ったタイミングで30秒程歩いては、また走った。
走りながら沿道上で応援する人々の顔を見た。皆、きっとそれぞれの家族や友人知人を応援に来ているんだろうけれども、それでもやっぱり全方位に向けられた「ガンバレー!」は走る側からすれば響くものがある。
歩いている最中に真横から「頑張れー!」と言われると咄嗟に走り出してしまったりするから、応援の効果たるや絶大だ。
中には自作の団扇を持って応援に来ている人もいて、沿道の人々を眺めるだけでも楽しいものだ。
沿道を埋める人の顔を見ながら走る事にした。お陰様で楽しく走る事が出来た。
吹上の交差点を超えた辺りで家族を探した。応援に出てきてくれるとの事だったが、果たして。
バンドの生演奏での応援なんてのもあって「こりゃあいよいよお祭りだわい」と思った。
後に聞いた話だと、恐らくほとんどニアミスくらいで僕が先に走ってしまっていたらしい。出てきて貰ったのに申し訳ない。

桜山を超えた辺りで補給所があり、スポーツドリンクや水を飲ませて貰う事が出来るのだった。
これこれ、これを楽しみに走ってきたんだよ。
スポーツドリンクを走りながら受け取り、飲んだ。なんだこれ。
これまでに飲んだ事がない程、こんなに旨いスポーツドリンクがあるか何か混ぜ物でも入っているんじゃないかと勘繰りたくなる程に旨いのだった。このスポーツドリンクを飲めるだけで走る価値があるな、と思える一杯だったのだ。

走りながら、妙に楽しく気持ち良くなってきた。
顔も笑顔になっていたんじゃないだろうか、物事全てを肯定的に捉える事が出来、1分1秒でも早くゴールしようと走り続けた。これがランナーズハイという奴か!
結局、1時間5分程で完走。結構時間がかかってしまった。

人生初のマラソンは多幸感の中で走り終える事が出来た。
マラソン部では「来年はハーフマラソンだね」だなんて話が出ている。
本気だろうか。1年かけて練習せねばなるまい。