コダマ10の記録 「犬丸ラーメン」

10月24日(日) 1:00頃

「そろそろか」

「そろそろですね」

スタッフ数名で示し合わせたかのように行動を開始した。

今回のコダマ、JONNYの他のもう一枠『出演』する事になっていた。以前告知した 「犬丸ラーメン」である。

名古屋は今池にて50年以上の歴史を有するトンデモないラーメン屋、大丸ラーメン。文化人やバンドマンをはじめ、数多くの人間に愛されるラーメン屋であるのだけれども(これ がその証拠だ。数多くの人間が熱いレポを載せている)、それにインスパイアされたラーメンを「コダマ10 」で出展しようというもの。

本家 大丸ラーメンは夜中の2時~5時が営業時間。コダマは基本、夜中出店がなくなり去年はひもじい思いをした。この時間に出せば空腹の人の胃袋を満たせるのではないか。そして多くのバンドマンがその名を口にするが故興味を持ちつつも営業時間故、平時なかなか本家 大丸ラーメンに行けずに歯がゆい思いをしている方々もコダマという「皆で楽しもうぜ!夜更かし万歳!」なシチュエーションならば本家の何分の一かでもそのテイストを味わって貰えるんじゃないだろうか。そしてそれをきっかけに本家に足を伸ばして貰えたら。

そんな思いが、胸にあった。

きっかけはパイプカットマミヰズ企画 の打ち上げの席である。コダマ首謀者の堀さんと「コダマで大丸ラーメン出店されたら熱いですよねー」と話しているうち、気がつけばどんどん盛り上がっていた。その場にいた人間も賛同し、あとは誰かが「やる!」と言い出すばかり。迷った挙句、翌日にやる事を決意した。大丸ラーメンは多くの人間に愛されるラーメン、いやラーメンというか、あれはもう文化だ。コダマで大丸ラーメンにインスパイアされた、と言いつつ下手なものを出したら多くの人間の気持ちを裏切る事になる。プレッシャーは確かにあった。

大雑把な作り方、そして製麺所は本家 大丸ラーメン 大橋大将から聞いている。今まで何人もの人間が自分のラーメンを再現した、と嬉しそうに語っていた。その歴史に名を連ねるならば、恥ずかしいものは作れない・・・・!

屋号は堀さんが口走った「犬丸ラーメン」をそのまま頂く事にし、我々は出店を決意した。

「犬丸ラーメン」出店が決まった段階で、「コダマ10」開催まで一週間をきっていた。時間が、ない。一日たりとて余裕はない中、「犬丸ラーメンプロジェクト」はスタートをきったのである。

そして迎えた当日。

野村さん、小森君を加えた我々「チーム犬丸ラーメン」、全ての出演者が演奏を終了した後に活動を開始したのであった。犬丸出店予定地付近にはまだまだ多くの人が残っている。出来るだけ仕込みをしている姿を人に見られたくない、という事で物陰でランタンの灯りを頼りに煮汁等調合していたのだけど、ふと気がつけば背後に気配。mudy on the昨晩 フルサワ君にワティフォ氏である。

「ラーメン、何時に出来ますか?」

「あ、まだ出来ないですよー」

シン君が応えても二人は動こうとしない。表情には何かを心待ちにしている期待が浮かんでいる。・・・成る程、ピンときた。

「まだ出来ませんから。他で食べて下さい」

本家 大丸ラーメン 大橋大将の声色を真似て応える。ガッツポーズをして去っていく二人。その後もmudy~メンバーは入れ替わり立ち代り僕のところへ来、「ラーメン何時からですか?」と『お約束のやりとり』をしに来た。

我々が本気なれば、彼らも本気だ。本気でお客さんを演じようとしてくれている。大丸ラーメンファンによる、全力の「大丸ごっこ」だ、これは。

mudy~メンバーの本気はこんなものではなかった。

彼ら、色紙を用意してきており大丸店内に貼ってある著名人のサイン色紙を完全再現、あろうことか色紙で看板まで作ってしまった。しかもパスを何枚か持ってきて「これ、貼っておきますね!」。ああもう最高だ!mudy on the昨晩は間違いなく強烈な大丸フリークであり、そして遊び心を理解した好事家である。

そんな彼ら、そして彼らの後ろに並んでいる沢山のお客さんに報いるには我々とて本気を出さないわけにはいくまい。

物陰にて、事前に用意しておいた衣装セット(エプロン、三角巾、マスク)を装着し、両足にビニール袋を巻く。細部は微妙に異なるけれども、これで夏場の大橋大将を意図している事は十分伝わるはずだ。あとは演技力。唸れ、今まで蓄積された俺の血液内の大丸魂!!

今まで何度も目にしてきた大橋対象の歩き方、様々な挙動を脳内に浮かべて一瞬深呼吸、皆の前を横切って店舗スペースに歩いていく。

「大橋さんだ!」

ザワつく行列。良し、掴みはOK。

煮汁を火にかけ、湯を沸かす。背後ではシン君に野村先生が様々な準備をしてくれている。

「大橋さん役は任せます。舟橋さんにしか出来ません」

シン君よ、そう言うけれどこのラーメン屋、ほとんど君が作り上げたんだぜ。君が誇るべき、君の努力の結晶なのだ。僕は所謂スポークスマンに過ぎないよ。しかし役目は全力で、果たす。

写真を撮ろうとする人、店内スペースの様子を伺いに来る人、それぞれに大橋さんならぬ「犬橋さん」としてリアクションを返す。演技をしつつも行列を眺め、これだけ多くの人が並んでくれるとは思わなかったなあと感慨に浸ってしまった。

煮汁が煮えてくるにつれて、辺りに匂いが充満する。我々の自信作、肉の煮汁が発する匂いは本家 大丸ラーメンに並んだ事のある方ならすぐにピンとくる「あの匂い」に肉薄している。さあ興奮して頂こうか!

「やべえ大丸の匂いだ!」

「大丸の匂いがする!」

シン君よ、やったな。胸の中で呟いて「犬橋さん」の演技を続けた。

煮汁は煮えたぎっているし、湯も沸騰した。開店だ。

続・我が逃走-101024_0209~01.jpg
暗闇の中での作業。
ランタンだけが頼りである。

今回何が嬉しかったって犬丸ラーメンを口にした方々が一口目、一口目で「大丸だ・・・・!」と感嘆の声を挙げられた瞬間である。

製麺所のご好意で全く同じ麺を卸して頂いたし、素材も可能な限り同じものを揃え、味はシン君の努力の賜物である。それが感嘆と好意を持って楽しんで頂けるのならば我々としてはこんなに嬉しい事はない。

20食限定、と銘打って開店したけれども21食目からは焼き蕎麦の麺、うどん玉を使って調理。結局30数食提供出来たようで、これは我々としては想像以上の提供数。何だかんだで3時開店、5時半までの営業となった。

最後のお客は慌てて駆けつけた植田君。

「これ食べなかったらもう死ぬところでしたよ!」
彼の分を作り終え、シン君が入れてくれたコーヒーを飲みながら一服。周りも少しずつ明るくなり、ああこれでコダマでの2ステージもやっと終わったのだ、と一息つくと途端に目がまわりだした。それまでまともに眠らずに動き続けたのが祟ったのだろう。

「10分だけ眠らせてくれ!」

就寝場所を見つけるとそのまま気を失うように眠ってしまった。

堀さんとの何の気なしの会話にその端を発する犬丸ラーメン。web上での反応等見ていても皆さん楽しんで下さったようで感無量である。「あの味」を目指して作られた「犬丸ラーメン」を楽しんで頂けたのなら幸いである。

そうそう、忘れてはならない。

試作会に於いて重要視された「肉の煮汁」。あれこそが大丸ラーメンの味の核になるのはスタッフ全員の統一見解だったのだが、その煮汁をスタッフ全員は愚か試作会に来られた松井さんや堀さんまでもが納得するクオリティに仕上げたのはスタッフ シン君の手腕である。彼は材料の買出しから諸々の用意、そして当日材料と器具の運搬から調理補佐まで全てに於いて一番動き回ってくれた。彼なくしては犬丸ラーメンは完成し得なかったと思う。皆の賞賛は半分以上君のものだよ。

海に突っ込んだ 後で体調も芳しくない中、ギリギリまで手伝って下さった野村先生にも最大級の感謝を。先生の助力があり、そして先生のお気持ちのお陰で随分と勇気付けられた。先生が後ろに控えて下さった環境でのパフォーマンス、今思えば何て贅沢。来年は是非犬丸でも表舞台に!

そして小森君。10分のつもりが6時間以上眠ってしまった僕のかわりに片づけを行ってくれて有難う。洗い物等地味な作業を担当してくれたお陰で開店作業をスムーズに進める事が出来た。

思いつきで完成度も約束出来ないこの企画にノッて下さった松井さん、堀さんにも最大級の謝意を!

店舗外装(?)をプロデュースしてくれたmudy on the昨晩にも賞賛を!

そして全てのお客様、そして忘れてはならない本家 大丸ラーメンにも感謝と敬意を!

犬丸ラーメン、いずれまたやります。

お楽しみに!

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