なんでもない出会いが意外と大事なものだった話。

今から1年と半年くらい前かな、ワンマンライブに際してどんどんかさんでいく諸経費に戦々恐々として夜の空いた時間を使って小遣い稼ぎ程度のアルバイトをする事にした。
丁度新聞の折込求人広告に一日実労働一時間半、日給1800円という都合の良いアルバイト労働の求人が出ていたので応募、面接の結果採用となった。それ以降ライブや予定のない日は夜の10時半頃自宅を出て、自転車で5分もかからない場所で12時半過ぎまで清掃作業に従事している。

そんな時間に働きに来る人間の中には所謂「ワケアリ」な方もいて、そういう人達と一緒に働くっていうのはなかなか興味深い体験だ。まあ、傍から見たら僕も「こいつ、落伍者だな」とか思われてるのかもしれないけれど。
体力仕事ではあったのだが、幸いにして適性があったようでしんどい思いをする事もなく、むしろ会社受けも悪くないのでワンマンを無事終えた後もずっと働いている。
てっちゃんとは、そこで出会った。

年齢は僕より幾つか若いはずだ。見た目にもインパクトのある大柄な男で、いつも半笑いを浮かべており基本的にノリは軽く、作業中にも軽口を叩きながらモップで小突いてくるような男だ。公園で乱闘騒ぎを起こした、とか本気なのか冗談なのかわからないよな事を口走ったりもするけれど、情に厚く、仕事もデキる皆に愛される男だった。夜間アルバイト先でまだ入ったばかりの頃、口をきくのは専ら現場責任者であるバイトリーダーだけだった僕と真っ先に親しくしてくれたのも彼だった。
一緒に出勤の夜は帰りにコンビニに寄り、ジュースを買って職場の愚痴や彼が最近やっているゲームについて話を聞きながら帰るのが定例となっていた。

今夜はそんなてっちゃんの最後の出勤だった。数日前、教えてはいたけれど一度も電話もメールも送ってこなかった彼から突然「10分くらい早く一緒に行こう」と誘われ、その事実を教えて貰ったのだった。もう一つやっているアルバイト労働が忙しく、こっちの作業には出勤出来なくなるらしい。僕が働き始めた頃から当たり前のように働いていたので、まさか彼が辞める事になるだなんて思いもしなかった。
連絡先は前述したように交換してあるし自宅が近いのでその気になればいつでも飲みに行けるけれども、夜勤先の同僚、以上の関係に踏み込んだ事がないから如何せんどうなるかわからない。彼は彼でプライベートの交友関係があって、僕には僕でそういうのがあるから。でもまあ、時間が空いても特に気にせずに話が出来る関係ではありそうだから大丈夫か。

同時に今月一杯で、お世話になった社員さんが僕の勤務店舗から担当を外れる事になった。人事課に異動との事なので恐らく出世なのではないかと思われる。何かと問題の多かった勤務先、社員さんが長続きせずに担当がコロコロ変わっていったけれどもその中でも一番うまく夜間勤務スタッフとうまくやっていた方だった。
年齢が近しいというのもあってか良い兄貴分といった感じで僕も慕っていた。仕事も随分とやりやすくなったのに、残念だ。

実際のところ、夜間労働作業先での人間関係は「その場」だけのものだと思っていた。今も基本的にそう思っているけれども、それでもやっぱり寂しいと思うって事は認識以上にあそこで働く人達に感情移入していたって事なのだろう。
春は出逢いと別れの季節っていう、そんな話。

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