大阪に於ける不完全密室殺人

6月8日金曜日、大阪は扇町DICEで公演を行う機会に恵まれた。DICEのスタッフの方々、DICEを紹介してくれたトイロの谷村氏には感謝しきりである。

初遠征という事で興奮していたのもあるし、夜間の方が高速道路が空いているという事もあって前日夜に名古屋を出発。車中ではメタリカやレイジ・アゲインスト・ザ・マシーン等のリフに魅力を見出だしたり中島みゆきやZARDの音楽に琴線を刺激されたりした。だがこの旅で一番印象深いのはやはりキング・クリムゾン。行きも帰りもクリムゾンの音の構築と破壊、壮絶なインプロビゼーションに酔った。

さて大阪の漫画喫茶で仮眠をとった僕は各務氏と商店街をブラブラ散策した。風俗店と立ち呑み屋が軒を連ねており、立ち呑み屋では午前中から酒を呑む人々の姿が見られた。名古屋では見られないこの光景に刺激され、大阪への期待が高まる。僕の思い描く商店街というのは人間の臭いがする所であり、そういった意味ではあの商店街はまさしく理想の商店街。

小腹が空いた我々は立ち喰いうどんの店に入った。関西のうどんは薄味であると聞いていたし、前回のライブで対バンしたLittle Bigからも「大阪ではうどんを食べてください」と薦められていたので念願かなったりといった具合。このうどんが想像以上に旨かった。出汁の味が効いており、また汁の味ではなく麺の味が豊かである。こりゃあ今後も関西風うどんにハマりそうだわい。

一足先に漫画喫茶を出ていた山田氏、起き出してきた神田氏と合流しアメリカ村の楽器屋へ。名古屋では見られないようなビンテージ楽器、ビザールなギターの数々。思わず持ち逃げしたくなるようなベースの数々に興奮を隠せない。見るだけでも楽しかった。
時間も時間なのでDICEへ。リハを終え対バンの方々と談笑。開演前にあんなにお話したのは生まれて初めてではないだろうか。実に気持ちの良い方ばかりで得難い交友関係を築けたように思う。

そして開場、開演。
扇町DICEはステージが広くない。あけすけな言い方をするのであれば狭い。客席と段差はほとんどなく、観客は至近距離でバンドの演奏を体感する事となる。それも一役買っているのか定かではないが、非常に生々しい。

ニシコというバンドが演奏を始めた。ドラムスの方がALLieの有坂くんを彷彿とさせる。ひねくれたポップ感覚を有するこのバンド、非常にインテリジェンスを感じさせる。観客もそのひねくれ具合を堪能していた。
次なる出演者はJIN-Cromanyonと名乗る男性ソロ。DJ機材を駆使した表現をしていたのだが、何より目が尋常でない。自らが打ち込んだその音の上で繰り広げるそれはまさしく狂気の沙汰。氏とは開場前も終演後もじっくりお話したのだけれど、「音楽は詳しくない」と言っているにも関わらず筋の通った表現をされる。バンドの見方も完全に音楽人のそれ。いやはや、危うく騙される所だった。

モーモールルギャバン、前評判から期待していたのだけど期待以上。ドラムボーカルというなかなか見ないフロントマンが牽引するバンドなのだが、実に突き抜けたバンド。フロアのお客さんもこのバンドを待ちわびていたようで凄い盛り上がりを見せていた。不完全メンバーも気に入った様子。

そしてトリは妄想良雄。坊主頭に眼鏡と共感をおぼえるギターボーカル氏は「闘う哲学家」。不穏な雰囲気を醸し出す一曲目から非常に好み。論客がいるバンドではたまに弁ばかりがたって表現がおざなりになるバンドがいるのだけど、これまた筋の通った事をやりなさる。意思や理想が後付けである音楽ではなく、それらが根付いているバンド。リズム隊のしなやかさも出色。

総じてこの日の出演者は濃かった。ブッキングにも関わらずイベントなのだろうかという印象を受ける程であり、ニシコのドラム氏とも話していたのだがつくづく“当たり”だったと感じる。遠方でこのような日に演奏出来たのは幸運というよりないだろうなあ。

では我々はどうだったか。
不完全密室殺人を始めてもうすぐ一年が経とうとしているが、あそこまで観客の反応が良かったライブは初めてではないだろうか。我々の出している音を観客が全身で感じているのが見てとれた。それを感じた我々も必然的に熱量があがり、テンションの塊のような演奏が出来たのではないだろうか。
噛み砕いて言ってしまえば人が自分達の音楽で踊り狂う様は絶景であった。

こうして初遠征もその価値を十二分に見出だして終える事が出来た。我々としては得た反省を今後に活かして邁進するばかりである。

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