パーティー会場に於ける男と女。

宴もたけなわだった。
俺の周りにいる男共はそのほとんどがしたたかに酔っ払っていたし、女達はその輪の中にいるか嬌声をあげている男達を侮蔑の目で眺めるかしていた。
飲み慣れないアルコールによって弛緩した頭で考える。俺はどうしてこんなところにいるんだろう?一体全体誰が俺をこんなところへ導いたというのだろう?

それは他ならない俺自身であったにも関わらず俺はそんな事ばかり漠然と考えていた。答えが薄々わかっているのに、そして自分が答えを手にしている事に勘付いているのに思索の旅に出るのは楽しいものだ。意識が白濁している時は尚更さ。
俺はどこのどいつが俺をこの集まりに叩き込んだのかぐるぐる回る螺旋階段のような意識の中で思い返そうとし、そして頓挫した。
同じ事を手をかえ品をかえ繰り返すのは酔っ払いにありがちだな。あとは三流の物書きに。となると今の俺に必要なのは優秀な編集者であるわけだ。

ああこの集まりったら、ない。
俺は思っていたよりもおぼついた足取りで会場から出ようと歩き出した。よしよし、歩ける
右左右左右左右左おっとつまづいた左右左。
俺がゆっくりゆっくり歩いていると目の前にあの女が立ちはだかった。諸君諸君、それは全く立ちはだかったというのが相応しい。その女は飲み物の入ったグラスを手に俺を冷笑しながら俺の目の前に立ちはだかったのだ。

「久しぶりだな、おい」
酔いまかせて自然と粗野な口調になった、という演技をする。
「お久しぶりね」
おいその目つきをやめないか、という目でじろりと睨みつける。実に全く、良くできた女だった。世の中で俺が好きな曲線は幾つかあるけれど、彼女によく似合った黒いドレスに3分の2程を隠された彼女の二つの丘は実に美しい曲線を惜しげもなく晒していた。その曲線が俺の好みだとわかった瞬間、俺は過去の確執等諸々全てを忘れた。そして俺の中にあったのはただ目の前の女をぐちゃぐちゃになるまでナニしたいという欲求だけだった。衝動といってもいいかもしれないな、ありゃあ。
俺はそんな自分の欲求を生唾と一緒に飲み下した。相手の目線から俺の嚥下を女がはっきりと目にしたのがわかる。奴さん、俺が漫画か何かのキャラクターみたいに生唾飲み下したと思っていやがる。いや実際その通りなんだけどもね。

「お前さんはどうしようもないアバズレだよ」
俺は相手の目を見据え言い放った。女の能面のような表情には何一つ変化が表れない。畜生め。
「変わっていないのね、あなたって」
そう言うと女は悠然とグラスの中身を干してみせた。そのまま俺に形のいい尻を向けると、女はゆったりと歩き去った。
俺かい?俺はまんじりともできなかったね。
それまで俺は意識していなかったのだけど、その瞬間に自分が如何に惨めだったのかって気づいたね。自分がどうしようもない奴の更に上をいくどうしようもないクソ野郎だって悟ったのさ。だけどな諸君、あの女だって相当に大した事のない奴なんだぜ。

グラスを干した時に脇に汗をかいているのが見えたのさ。冷房の効いたこの会場、つまり奴さん緊張していたのさ。俺に何か言うつもりだったのかもわからんね。

だがそんなもんだろうよ。
昔の男と女なんてものは。

コメント