頑張れタニグチ君

続・我が逃走

みそっかすのヴォーカルギター デストロイはるきち君と呑んだ。最近飲酒が少しずつ楽しくなってきたので、若い(とは言っても僕より2つ下なだけだけどね)バンドマンと酒を酌み交わすのも面白いかもしらん、と思えたのだ。

はるきち君、実際今日で会うの2回目だったんだけどね。でもまあお互いの合意があれば距離なんてどれだけでも縮まる。

で、野々垣君(今やサポートを色々やる売れっ子状態)も合流して3人で沖縄料理屋にて呑む。野々垣君は車で来ていたので水をひたすら呑んでいた。僕はレミー・キルミスターがモーターヘッド結成以来、コーラのジャック・ダニエル割を欠かさず呑んでいた、という話を聞いて以来のコークハイ・ブームなのでコークハイを。

で、あっという間に潰れるわけですよ。体質的にお酒弱いから。上の写真は泥酔したはるきち君と僕。

で、はるきち君ちで更に呑み直して、野々垣君に伏見まで送ってもらった。自宅まで地下鉄の駅にして3区間程。なに、歩けない距離じゃないし酔い醒ましには丁度良い。テクテク歩いて帰る事にした。

20分程歩いた頃だろうか、携帯電話に向かって大声で話しながら歩いている男性に声をかけられた。

「すいません」

「はい」

「ここ、どこですか?」

「ここはそうですね、千種の近くです」

(電話に向かって)「おい、千種だってさ」

「・・・・・」

「千種だって。すいません、ここどこですか」

「千種です」

(電話に向かって)「千種だって」

その眼鏡の若人、相当酔っている様子。会話がひたすらループしている。通話相手に業を煮やしたのか「もういい!」と言うと電話を切ってしまった。

「すみませんね」

「いえいえ。相当酔ってる様子ですね」

「そうなんですよ。○○ってクラブで呑んでたんですけど怒って出てきちゃいました」

「○○って、結構距離ありますよ。どこ行くおつもりで?」

「わかりません」

「え」

「ここどこですか?」

「千種です」

クラブに残っているという友人に、千種の駅まで迎えに来て貰うという事で残り100メートル程だったけれども千種の駅まで案内してあげる事にした。

「いや、本当ごめんなさい。助かります」

「いやいや。で、どっから来たんですか」

「知多半島です」

「それはまた遠いところから」

「会社の同僚と呑みに来たんですよー」

「ほう、それはそれは」

見た感じ、僕より若い。僕がこう言うのも何だけれどもどこか冴えない、僕からすれば親近感を抱くには十分な風体の青年。お互いに少しずつ打ち解けてきた。

「何で怒って出てきたんですか」

「いやークラブ向いてないなって。好きじゃないんですよ」

「好きじゃないなら何故行くのか笑」

「友達に連れてってやるって。会社の同僚なんですがね」

「へえ。あ、ここ千種ですよー。友達に電話してみては」

「そうですね、有難うございましたお兄さん」

「いえいえ」

(携帯電話に向かって)「千種なんですけどぉ!迎えに来てくれよ。・・・・何、来ない?」

「・・・・・」

「えっと、だからここは、千種だよ!千種の駅!」

「・・・・申し訳ない、ちょっと電話換わって下さい」

「はい」

「・・・・もしもし、電話換わりました。通行人です。今千種の駅なんですが、来れますか?この方、酔ってるようですしそこには戻れそうもないですから。・・・・来れない。はぁ、じゃあ放っておいていいんですかね?・・・・わかりました」

「どうなりました」

「何か、自力で帰れって。・・・・・・」

「朝まで待ちます!」

「始発までまだ5時間ありますよ!漫画喫茶とか案内しますよ」

「恐縮です、お兄さん」

「いいすよ、気にしない気にしない。・・・失礼ですが、お幾つですか」

「22です」

「若ッ!」

「友達に“女の子紹介してやるから”って言われて料金の8割くらい出してやったんですよー」

「・・・・・名前は何ていうんですか?」

「タニグチっていいます」

「あのね、タニグチ君ね、それカモられてますよ!多分カモられてます。女の子紹介して貰えたんですか」

「して貰えましたよ。あまり好みのタイプじゃなかったけれど」

「で、お友達は今もまだクラブに?」

「ええ」

「迎えには来ない、と」

「ええ」

「タニグチ君財布扱いかよ!!」

哀れ、タニグチ君は見知らぬ土地で放り出されてしまった(彼が自分の意思でクラブを飛び出したので正確ではないかもしれないが)わけで、しかも漫画喫茶で朝まで過ごす余裕は財政的にあまりないという。この冴えない風体の若者に僕は滅茶苦茶感情移入していた。ひょっとするとかつての自分をそこに見出したのかもしれない。放ってはおけない。

「タニグチ君、コンビに入ろう。コーヒーぐらい奢ってあげるから」

「すみませんお兄さんすみません。コーヒー美味しいです」

「どうするのさー。このまま朝まで待つってのは無理ありますよー」

「あ、電話だ。もしもし!え、千種来たの?」

(あーこれあれだ、会社の同僚が知らない人に拾われてやばいってなって迎えに来たパターンだ・・・・)

「じゃあ行くわー!」

というわけで来た道を逆戻り、タニグチ君とこの段階で30分間話し込んでいた。見知らぬ男と見知らぬ深夜の街を歩くって、怖くないのかタニグチ君。酔っ払ってるからわからねえか。

歩いていくとタニグチ君の友達「イエダ君」のワンボックスカーが待ち構えていた。車から降りてきた「イエダ君」はちょっとイケイケで、タニグチ君と随分雰囲気が違った。

「すみません!」

「いえいえ、しかとタニグチ君、送り届けましたよ」

「いやあ助かりました」

「お兄さん有難うー!」

「おめーぜってークラブ戻っても抜け出すんじゃねえぞー!!」

「お疲れ様ですー、有難うございましたー!」

こうして傍からは財布係にしか見えないタニグチ君は、クラブへと戻っていったのだった。

これだから深夜徘徊はやめられんのだ。すっかり酔いも醒めて帰宅した。

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