2006年の長いあとがき

年内予定していた全公演が終了したという事で不完全密室殺人舟橋孝裕としてではなく、脚本家フナハシタカヒロとして「あとがき」を。

06年初夏に始まりつい先日終了した6公演。前口上のみ書いたのが2公演、残りの4公演全3エピソードは曲間のナレーションも書かせてもらった。

「猫神家の一族」
「我が人生に一片の悔いなし」
「その名は悪意」
「ミケと私の物語」
「しばしのお別れ」
そして
「九条院家の崩壊」

沢山の遊び心と一握りのセンチメンタリズム、そして雀の涙程の美意識を織り交ぜて書いてきたこれらのエピソード(前二つは山田氏との共作であるが)にはやはり愛着がある。

・「猫神家の一族」
この頃は前述の通りタイトルと前口上のみ書いていたので曲間は山田氏のアドリブ。だけれども両者の間にイメージの齟齬なくうまく進行したと思う。横溝作品ほどおどろおどろしく、陰影のきいたエピソードにはならなかったがいずれこれを雛型にリライトしたい。

・「我が人生に一片の悔いなし」
山田氏との共作。このエピソードの前口上において「読者に物語る」形式が初めて明確に提示された。時代考証等をしだしたのもこのエピソードから。

・「その名は悪意」
神田佑介氏原案。人のパスを受け取って脚本を書き上げるのは難しいがうまくいくとこれほど愉快な事もない。この回から曲間のナレーションにも着手した。概念上の題材を抽象的な語り口調で語るというのは個人的に新しい試みだった。

・「ミケと私の物語」
初回以来久しく殺人事件を描いていなかったのでそろそろ殺人事件を、と思っていたものの突如思い付いたこのエピソードに感情移入してしまい結局こちらが採用。各務氏は元ネタに気付いていた模様。ライブの進行に添って思った通りのものが書けたという手応えをこの回程強く感じたエピソードはそれまでなかっただけに非常に印象深い。この公演を観たお客さん(その頃失恋した様子)から「死にたくなった」というコメントを頂き、バンドが「遊び心」としてとらえている「エピソード」としての側面が受け手にとってはインパクトのあるものなのだと感じた。

・「しばしのお別れ」
年内最後、そして日程的に近接した二公演という事で初の前後編という方式をとった。美しく哀しい犯罪者、というその筋では先人達が挑戦し続けてきたジャンルに手をだした。前編で犯人の背景を描けた事で後編での感情移入の仕方が違ってきた。尊敬し、慕ってきた諸作品へのオマージュを込めたエピソード。
「戦争が生んだ悲劇」というのが意識としてあったのだが、公演日が偶然にも真珠湾攻撃の日だったようで何かしらの命運的なものを感じてしまった。書き上げるのに一番時間がかかったかもしれない。

・「九条院家の崩壊」
1stミニアルバムのエピソード。音源を製作するにあたり「普段とは違った事を」と女優田中絵里氏にナレーションを依頼、氏がナレーションを読み上げるのを大前提として書き上げたエピソード。富豪の令嬢という、これまた王道なイメージを十二分に楽しんで書いた。氏の演技といい、池上琴恵嬢のイラストといい、イメージ以上の仕上がりであった。
不完全密室殺人のベーシックと言えるであろうエピソード。

とにかく、全てが印象深い。
演奏する側の思惑としてはこれらは演出、遊び心であるわけであくまでライブがメイン。主題とするのは曲であったり詞なのだけれど、やはり遊び心はやりきってからこそ。真剣に遊びきらなければ意味がない。
ある公演においてはエピソードが曲に影響を及ぼした事もあって、非常に嬉しかった。
来年も色々と書こうっと。

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