BOSS TU-2の健気さ

僕はエフェクターが好きです。
ベースギターを弾くようになってからしばらくして出会った、この繋いで踏みつければ音を変えてくれる機械は当時の僕には、いや、今の僕からしても「魔法の箱」なんて言葉では生易しい、クリエイティビティを刺激される大きな存在である。
エフェクターに触発されて生み出されたフレーズ。エフェクターで音が変わった事に興奮して演奏の熱量が変わる。それこそエフェクターを150個以上買った今だって頻繁に、ある。
学生時代は目に入るもの気になるもの手が届くものをそれこそ軒並み買ってやろう、という勢いで馬鹿みたいに買ったけれど、そういうのを繰り返すうちに経験値が蓄積されてきたのか「本当にその時の自分に使えるもの」だけを選んで買う、所謂審美眼というのかな(違うか)、そういうのも養われてきたように思える。
楽器の音色は演奏家の声と言われる。僕はご自慢の「声」が幾つか、ある。「声を大にして」主張する(時には怒りに任せて、時にはただ大きな声で、時には雄弁ながらも冷静に)、「含みを持たせて」(印象深くなるように繰り返したり、内容の背景を感じさせたり、暗にほのめかしたり)話す等、声と話し方には密接な関係があり、そしてそれらが有機的に結びついて巧みに運用された時にその声、話は説得力を持つのだと思っている。
同時に僕はそれらをないがしろにする人間も愛している。
「声なんてなんだっていい、俺は言いたい事を言う」という奴だ。実に潔くて、気持ちが良い。
それだからこそ持つパワーも、絶対にある。そして、なんなら僕にもそう思う時がある。根っこにある発想は「声=音は人に由来する」というものだからだ。

だけども、僕は自分のベースギターを完全にコントロールする事を目標の一つとしているし、エフェクターを愛するあまりライブ毎に足元を変える。
勿論完全に入れ替えるわけではない。プリアンプや「これだけは外せない」という類のものは固定だったりするけれども、場所に余裕のある時は最低でも一つは自分にとって新鮮味のあるものを忍ばせるようにしている。安定したアンサンブルの中で刺激を欲するがあまり不確定要素をそこに求めているのだ、と言えば聞こえは良いだろうけれども(そんな事しなくても演奏は毎回きちんと刺激的で、当たり前のようにそれまでと違うものになる。基本的に同じ演奏なんて二度と出来ない)残念ながらそうではない。
単純に、好きなのだ。面白い。刺激的で、魅力的だ。

長い前置きになった。ごめん、前置きなんだ、すまない。
そんなエフェクターを愛してやまない舟橋だけれども、では何が一番長く使っているのか、と改めて考えてみると一体何なのかしばし悩んだ。歪みものは時々変わるし空間系なんてもっと変わる。やっぱりサンズアンプか、と思った時に気が付いた。
「チューナーだ」。
そう、チューナーだ。サンズアンプよりも前に買って苦楽を共にしてきた、BOSS TU-2。これぞ間違いなく買った当初から今尚第一線、ずっと一緒に戦い続けてきた一台と言えるだろう。サンズアンプも、それこそかれこれもうすぐ10年近くの付き合いになるけれども。

IMG_3703.jpg
BOSS TU-2。
僕がフットタイプのステージチューナー(洒落た言い方をしたけれども要するに”踏むと音をミュートしてくれるチューナー”だ)を買い求めた時は、今のように多くのメーカーがステージチューナーを販売する前だったように思う。僕が他を知らなかっただけかもしれないけれども、当時はこのBOSSのTU-2とKORGのものが二大シェア巨頭だったような気がする。なかった、なかったよ。全弦ジャランと鳴らすとどれだけずれてるか一気に教えてくれるチューナーも、ZIPPOライターくらい小さいチューナーも。クリップチューナーなんてのもほとんど出回ってなかったんじゃなかろうか。
で、僕がどうしてこれにしたかっていうと何となく楽器屋で見かけたからだ。チューナーを買いに行ったら、これがあった。
踏むと音を完全にミュートしてくれる事だけを確認して、喜んで買った。チューニングの精度?それまでずっとカードタイプのやっすいの(それこそ入門セットに入っているようなのだ)を使ってたくらいだ、こだわるわけがない。
だけども僕は当時の自分を褒めてあげたい。何故かって?
TU-2は、今まで一度も壊れた事がない。激しくオン/オフする類のものでもないのでそりゃあそうかもしれないけれど、しかし今まで何度チューニングしただろう。そしてどれだけ持ち運びし、時には落とし、ぶつけ、ぞんざいに扱ってしまっただろう。チューナーの置かれる環境というのは少なくとも僕の場合はわりかし過酷だったと言って良い。けれどもTU-2はただの一度も壊れなかった。ただただ愚直に、送られてくる電気信号を識別、表示していた。

だけれども正直に言おう。
「チューナー持ってくくらいならファズ持ってくよ」という発想で(※僕はベースケースにエフェクターを入れて持ち運ぶ。ライブの時もスタジオ練習でもそうだ。つまり一度の演奏で使えるエフェクターの量には上限がある)、こいつを家においてスタジオに行った事がある。「スマートフォンにチューナーアプリ入ってるしいいや」って。
そこで僕は、TU-2が如何に僕を支えてくれていたか痛感する事になる。
確かにスマートフォンにチューナーアプリは入っていた。マイクで音を拾う形だけれども、精度も悪くなかった。ちゃんとチューニング出来た。けれども、アプリではどうしようもないものがあった。
バッファ、だ。
BOSSのコンパクトエフェクターには全てバッファが入っている。「長いシールド繋いでも大丈夫なようにしておいてあげよう」という開発者さんの親切心なのかはわからないが、BOSSのコンパクトエフェクターに入力された信号は例えエフェクトがバイパス時でもそのバッファを通過する事になる。それを嫌ってBOSSを毛嫌いする人もいるそうなのだが、僕の場合は違った。
僕は知る。僕のファズ達はBOSSのバッファを通過した後だからこそ、僕好みの音を出していた事に。
それまでの設定だとどうもモッサリしたというか、何だかガツンとこないファズ達。そうなのだ、ファズはインピーダンスの影響を受けやすい。僕のファズ達は足元先頭のTU-2のバッファ通過後のローインピーダンス変換された電気信号だからこそ、僕の愛する音を出していたのだ。それまでとは違った音を出すファズ達。調節すればそれまで通りの、僕の愛する音を出してくれたかもしれない。だけれども中には明らかにどうしようもないレベルで音が違うものもあった。迂闊、だった。ファズを使っているのにインピーダンスまで気が回らなかったなんて。
それ以来、僕はスタジオにもTU-2を必ず持っていくようにしている。今や僕にとってTU-2はチューナーなだけではない。音作りに深く関わるアイテムなのだ。

自分の音を真っ先に受け止め、調弦の手伝いをしてくれるばかりか、ローインピーダンス変換までしてくれるTU-2。
お前、どれだけ仕事してるんだよ!!

コメント