mooger fooger LOWPASS FILTER

続・我が逃走

年齢、経験値を重ねないと扱えない機材というのは残念な事なれども存在する。

例えば、鍵盤のどこがドかを理解したての子供にアナログ・シンセを渡しても有益には扱わないだろうし、歪みエフェクター一つにしてもその機材の性能を引き出すには鍛錬と試行錯誤が必要だ。

勿論予備知識がない分、衝動的に素晴らしいサウンドを引き出したり出力させたり、そんな実例もあるだろう。
子供は「このツマミをいじると音がこうなって・・・」とか考えない分好奇心剥き出しでツマミを触るだろうし、それによって引き出される音というのは十二分に価値がある。音は等価値だ。

しかし今から数年前の僕が購入した一台のエフェクター、それを踏んで期待した音を出力するのには当時の僕にはスキルがなかった。今日書くのはそんな一台のエフェクターの話だ。

今から数年前、あれはまだ確か学生自分だったと記憶している。両親が海外旅行(韓国か台湾か、その辺りだ)に出かけるという事になった。僕は試験かライブか、或いは思春期を終えたというのに愚かにも両親と旅行に出る事に抵抗があったのか、それともたまには夫婦水入らずで過ごすのも悪くないと気を遣ったのか、兎に角僕は両親が留守の間自宅を守る事になった。父と母も僕に気を遣ったのだろう、留守番代をやる、と言って結構な金額を提示してくれた。「これで君も遊ぶと良い」、そんな粋な計らい。

確か夫婦初の海外旅行でも両親は僕に小遣いをくれ、それで僕は人生で初めてのベースギターを購入したのだが、その時の僕は両親にこう切り替えしたのだった。

「小遣いはいらぬ。ただ追金するからエフェクターを一つ買って欲しい」

何て事はない。丁度その時憧れていたエフェクターがあったのだ。

当時、数回ライブに参加させて頂いたバンドでG-FIGHTER というバンドがいる。未だに名古屋が誇るリズム・セクションだと思っているmAtsuiさん (今はstudio Vetix、或いはコダマ の主催者として名を馳せている)と青山さん率いる即興演奏のバンドで、このお二人に憧れていた僕は「ベースを弾かないか」というお誘いにすぐに飛びついたのだった(ライブの記録は、短いけれどもこれ とかこれ とか)。ツイン・ベースにドラム。この3人での練習/ライブは本当に楽しかった。即興故、進行の大筋のみ決められた楽曲に登場するリフはどれもこれもオリジナリティの塊だったし、お二人が目指す音楽の完成形も素晴らしいものだった。さらには渋さ知らズの面々とも演奏をされていたお二人はそのキャリアが物語るように実にオンリーワンな存在だったし、何よりmAtsuiさんはG-FIGHTERと共演、その演奏を観、聴いた瞬間に平伏する程巧みなエフェクト・ワークを組み上げる心の師匠でもあったのだ。

そんなmAtsuiさんの足元、見ているだけでワクワクするようなエフェクト群の中にあったのがmooger foogerのLOWPASS FILTERだった。このエフェクトはG-FIGHTERでの演奏でも多用され、僕にとってはmAtsuiさんを象徴する存在であった。一緒に演奏しながらこのエフェクターが出力するサウンドのうねり、凄みを体感し一人恍惚としていたのだ。欲しい。だが、高い。

両親の申し出は願ったりかなったりだったのである。

程なくして僕の手元にmooger fooger LOWPASS FILTERがやってきた。ローパス・フィルターというのは名の通りロー(低域)をパス(通過)させるエフェクターで、設定以上の周波数帯域をバッサリ切り落とし、おまけにエンベロープ・フィルターセクションでオートワウのような効果が得られるエフェクターである。各種パラメーターはエクスプレッション・ペダルを外部接続する事で演奏中に任意で可変させる事が可能で、その可能性は相当広い。

僕はワクワクしてこのエフェクターにベースを繋げ、アンプから音を出した。

だが、おかしい。あの音が出ない。どれだけいじってもスタジオで体感した、強烈な音が出ないのだ。

後々調べてわかったのだが、このエフェクター実に繊細で、ほんの少しツマミを触っただけでも音が変わってしまう。その上、出力される信号は入力信号によっても影響され、フレキシブルなサウンド・メイクが要求された。それまでよくよく機材とじっくり付き合わず、直感のみで音を作ってきた僕にはまだ扱いきれず、哀れこのエフェクターは機材棚の中で埃を被る存在となってしまった。

だがふと思いつき、今夜ベースを繋ぎ、音を出してみた。

注意深くツマミを触り、音を作る。すると、どうだ。スタジオで感じたmAtsuiさんの音程の強烈さはなくとも、数年前自分が作り出したのとは比較にならない効果が得られた。

数年前の僕は「ローばっかり通しても仕方があんめえ」とパスさせる周波数を随分と高めに設定、原音のほとんどを通過させて「エンベロープ・フィルターのかかりが悪い」と思っていた。だがここが盲点だったのだ。

このエフェクター、大胆に周波数帯域をカットさせて、エンベロープ・セクションで音の輪郭というかアタックを保持した方が結果的に効果もわかりやすく、音もまとまりやすい。カットする周波数帯域を設定するCUTOFFツマミと、エンベロープ・フィルターのかかり具合を調節するAMOUNTツマミはいわば反比例関係にあったのだ。CUTOFFで大胆に周波数を切ってやればやる程、大胆にオートワウ効果を得る事が出来る。

これに気付いてからは各種の微調整も随分とサクサク進むようになり、このエフェクターは僕にとって想像力を刺激される面白い機材に変貌したのだった。

気がつけば夢中でツマミを弄繰り回している自分がいた。

この数年で何が変わったかはわからない。

しかして一つのエフェクターにじっくりと向き合った際に、腰を据えてツマミを回す判断力だけは多少なりとも養われたのだ、と信じたい。

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