東野圭吾『容疑者Xの献身』その2

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東野圭吾『容疑者Xの献身』読了。
気づけばチビリチビリと読むつもりが時間の許す限り本に向かい合っていた。それだけの吸引力が本書には、ある。
感想を書いていく。明確なネタバレをするつもりはないが、本書を未読であり今後愉しむ予定の方は目を通さない方が良いだろう。恐らくは無粋な書き方をするだろうから。

さて、感想を一言で表すのならば「美しい」だ。
本書は極めて複雑でいて簡潔、重厚なミステリーのようで圧倒的な人間ドラマが淡々とした文章で纏め上げられた良作である。
短編を全て読んだわけではない。しかして敢えて言ってしまうのであれば僕が既読の一冊と本書を比べるとテンションが違う。東野圭吾は本書を書きたいがために短編で「探偵ガリレオ」を書いたのではないかと穿った考えすら浮かんでしまう。

「天才物理学者VS天才数学者」という構図を掲げるのは簡単なれども、本書で「探偵ガリレオ」は短編で見られたように、知性を存分に発揮する役割が主ではない。彼は主人公の行為に驚愕し、悩み、そして葛藤する。短編では見られなかった湯川学という人間の人間味が一気に噴出している。
冷静で論理と知性を何よりも重んじる「ガリレオ先生」を以ってしても動揺せざるを得ない犯罪。

犯罪の動機に感情移入するのはセンチメンタリズムに駆られた行為だというのは明らかであるが、それでも本書はフィクションであるが故にそういった甘美な行為に大いに浸らせてくれる。犯罪が行われた、という側面よりも主人公の覚悟、そしてその覚悟を“理論的に”彼に抱かせるに至ったその動機は極めて人間臭いものだった。
その一点が、実に簡潔でいてそれが故に(語弊を恐れないのであれば)美しい。

良作だった。

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